癌促進性癌微小環境の形成が癌悪性化の進展に極めて重要であることが認知されている。しかしながらその分子機構は十分に理解されていない。申請者らは、これまでの研究で、癌微小環境中に多く存在する癌内線維芽細胞 (CAFs: carcinoma-associated fibroblasts)が近傍の乳癌細胞に作用し癌悪性化を促進すること、さらにCAFsにおけるTGF-βオートクラインシグナルの活性化が癌促進性CAFsの表現型の維持に重要であることを明らかにしてきた。また最近の申請者らの先行研究より、乳癌由来CAFsにおいてreceptor-regulated Smad (R-Smad)結合蛋白であるRunt-related transcription factor 3 (Runx3)およびWnt-β-cateninシグナルが亢進していることが明らかになった。本研究では、Runx3がTGF-βおよびWnt-β-cateninシグナルのクロストークに寄与し、CAFsの癌促進能を媒介している可能性を調査する。さらにCAFsにおけるRunx3発現を標的とした新規癌治療の開発の基礎の構築を目指す。 CAFsではTGF-b-Smad2/3 およびWnt-b-cateninシグナルがオートクラインの様式で活性化していることおよびRunx3がこの2つのシグナルの活性化を橋渡ししている可能性を調査する為にRunx3-shRNAを作製した。RUNX3-shRNAの導入により乳癌由来CAFsにおけるRUNX3の発現低下は免疫不全マウスに共移植されたヒト乳癌細胞の増殖を有意に抑制することが示唆された。 今後はRUNX3の発現抑制によるCAFsの癌促進能の低下がTGF-b-Smad2/3 およびWnt-b-cateninシグナルの低下に起因するか否か調査する予定である。
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