研究課題/領域番号 |
19K16758
|
研究機関 | 公益財団法人佐々木研究所 |
研究代表者 |
宮崎 允 公益財団法人佐々木研究所, 附属研究所, 研究員(移行) (20804131)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 肺がん / 薬剤耐性 / 蛍光イメージング / ALK |
研究実績の概要 |
がん治療においては、がん細胞の薬剤耐性獲得が大きな問題となっている。がん細胞が薬剤耐性を獲得する際には、がん細胞自身の変化だけでなく周囲の間質細胞との相互作用が重要であることが報告されている。しかし、腫瘍内の「どこで」薬剤耐性細胞が出現しているかについては不明である。本研究では、蛍光タンパク質により様々な色で標識したがん細胞をマウスに移植し、薬剤投与後の腫瘍組織を多色蛍光イメージングにより解析することで、薬剤耐性細胞の出現環境について明らかにすることを目的とした。今年度は、移植に使用する細胞の準備および腫瘍組織の解析に使用する抗体の評価を行なった。まずRGBマーキングと呼ばれる手法を用いてがん細胞の標識に着手した。EML4-ALK陽性肺がん細胞株に、レンチウィルスを用いて異なる3つの蛍光タンパク質遺伝子(mTFP1、mVenus、dTomato)を導入した。この結果、がん細胞が様々な蛍光色で標識されていることを確認した。さらに、細胞のセグメンテーションを簡易化するために、各蛍光タンパク質に核移行シグナル配列を付加したコンストラクトを作製した。同様にがん細胞を標識し観察した結果、細胞核が様々な蛍光色で標識され、容易に細胞同士を区別できることを確認した。次に、ヒト正常線維芽細胞株およびヒト肺微小血管内皮細胞株を用いて、免疫組織染色に使用する抗体について、免疫細胞染色およびウェスタンブロット法により評価を行なった。この結果、抗alpha-SMA抗体および抗CD31抗体をそれぞれヒト正常線維芽細胞およびヒト肺微小血管内皮細胞の検出に使用することとした。in vitroでRGBマーキングにより標識したEML4-ALK陽性肺がん細胞のALK阻害剤感受性が、線維芽細胞や血管内皮細胞により影響されるか検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RGBマーキングによる細胞の標識については、既に手法が確立されており問題なく実施できた。組織内の細胞を定量的に評価するためには、個々の細胞を区別するためにセグメンテーション処理が必要である。蛍光タンパク質に核移行シグナルを付加することで、容易に細胞同士を区別することが可能であった。免疫染色の条件検討については計画通り実施できた。既知のマーカーに対する抗体を複数用いて細胞株における発現を、免疫細胞染色およびウェスタンブロット法により調べた。この結果、alpha-SMAおよびCD31がそれぞれヒト正常線維芽細胞株およびヒト肺微小血管内皮細胞株で特異的に発現していることを確認した。またこれらの抗原が、EML4-ALK陽性肺がん細胞株ではほとんど発現していないことも確認した。さらに、EML4-ALK陽性肺がん細胞のALK阻害剤感受性が、ヒト正常線維芽細胞およびヒト肺微小血管内皮細胞の存在により影響するかをin vitroで確認した。この結果、ヒト正常線維芽細胞あるいはヒト肺微小血管内皮細胞と共培養した際には、がん細胞単独に比べ、ALK阻害剤(アレクチニブ)感受性が低下することを確認した。一方で、動物実験に関する条件検討については実施が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は、皮下移植腫瘍モデルにおける薬剤耐性クローン出現の観察と免疫組織染色および画像解析によるがん微小環境の定量的評価を実施する。ヌードマウス皮下にがん細胞を単独あるいは線維芽細胞、血管内皮細胞と共移植し腫瘍を形成させ、ALK阻害剤を投与する。腫瘍を摘出して凍結切片を作製し、蛍光顕微鏡で観察を行う。これにより、腫瘍内の薬剤耐性クローンを特定する。免疫組織染色と画像解析よるがん微小環境の定量的評価については、腫瘍切片の免疫組織染色を行い、薬剤耐性クローンが出現した周囲のがん微小環境について解析する。得られた画像について画像解析ソフト(ImageJ)を用いて解析しその特徴を探る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
動物実験計画について遅れが生じており、2019年度の使用額が当初の予定より少なくなったため、次年度使用額が生じた。2020年度は、動物実験を多く行う予定であり、物品費が増える予定である。
|