研究課題/領域番号 |
19K16764
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野津田 泰嗣 東北大学, 大学病院, 助教 (00636037)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん3Dオルガノイド / 肺腺癌 / 共培養 |
研究実績の概要 |
2020年度は2019年に報告した論文をさらに発展させて、申請者の前勤務研究室であったトロント大学、プリンセスマーガレットがん研究所のMing Tsao研究室との連絡をより密にして、がん3Dオルガノイドの作成効率の上昇を目指したが、残念ながら全世界的なコロナヴィルス感染症に伴う大都市のロックダウンにより、研究の停滞を余儀なくされた。しかし、国内で出来ることに注力し、昨年着目したYAP-TAZの免疫染色に着手し、肺腺癌30症例について染色および解析を終えた。YAP-TAZは、腫瘍細胞同士の接触が成長刺激となり、Hippo-YAP/TAZシグナル伝達経路を介してがんの発症や悪性化に深く関与することが示されており、YAP-TAZの核内移行が遺伝子の発現を制御することがわかっている。免疫染色の結果、ほぼすべての症例にYAP-TAZの細胞核内および細胞質内の発現亢進を認めた。さらにYAP-TAZの局在や、予後との関連、病理病期との間に相関を認めなかった。このことは、そもそも腫瘍細胞同士の接触とYAP-TAZの発現亢進はがんの成長に必須である可能性を示しているものと考えられた。さらに症例数を増やして検討する予定である。がん細胞株を使用したオルガノイド作成の成功率は高く、さらにオルガノイド増殖抑制アッセイや、がん関連線維芽細胞、リンパ球との共培養などを行い、腫瘍周囲の微小環境の評価や免疫チェックポイント阻害薬の効果判定にがん3Dオルガノイドを使用できるようなモデルの確立に向けて研究を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究はやや遅れている。がん細胞株を使用した3Dオルガノイド作成については、成功率を下げることなく安定した株の作成、培養を行なっていが、臨床検体については、コロナウィルスの全世界的な感染の広がりによって物流が途絶えたことなどから進捗が悪い。今後もこの傾向は継続することが見込まれるので、in vitroでの検討を重ねていく予定である。具体的には、抗がん剤の効果判定や、免疫チェックポイント阻害薬の効果判定に3Dオルガノイドが有効かどうかを検討し、実用化に向けて基礎実験を重ねておく予定である。YAP-TAZの発現解析の結果からは、単細胞からの3Dオルガノイド作成より、数個のがん細胞のクラスターから3Dオルガノイドを作成する手法に変更した方が、より効率的に3Dオルガノイドを作成できると考えられたため、作成プロトコールを変更したところ、良好な結果を得た。つまり、より早く、効率的にオルガノイド作成が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、2つを予定している。まず初めに、臨床検体については、進捗状況は思わしくないが、腫瘍径3cm以上を対象として3Dオルガノイドを作成することに注力する。さらに術直後の検体だけでなく、研究所に保存してある凍結標本を使用しての3Dオルガノイド作成を試みる。凍結標本からの肺がんオルガノイド作成は世界でも成功例がなく、もしオルガノイド作成に成功すれば、世界初となり非常に注目度が高い。2つ目は、進捗状況にも示した通り、現在、細胞株では従来より早く、効率的なオルガノイド作成が可能となっているので、この手法が臨床検体にも応用できるか検討する。さらに、少ない継代数によって、抗がん剤の効果判定ができるモデルを確立できれば、肺癌のオーダーメード治療に大いに役立つ可能性があり、それに向けた基礎研究を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって検体採取の効率が落ち、その分研究材料費として予定していたもので未使用分が出てしまった。また、学会がwebでの開催となり、学会会場での発表機会がなかったために、旅費として使用する予定だった予算も未使用となった。webによる会議は繰り返しており、若干の遅れはあるものの、研究の進捗具合は当初の予定に近づきつつある。次年度は最終年度にあたるので、コロナウィルス感染状況を鑑みながらも、迅速かつ正確な研究を心がける。手技の安定は図られており、若干の検体集積をもってデータ解析に移行できる見込みである。
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