RASシグナルの活性化およびTGF-βシグナルの不活化は、膵臓癌、大腸癌、胃癌などの様々な癌種において認められる。このRASシグナルの活性化とTGF-βシグナルの不活化のクロストークによる発癌の分子機序は、炎症とTGF-βシグナル遮断の相互作用により浸潤・転移が誘導される事が明らかにされたが、その詳細な分子機構は不明な点が多い。 本研究では、RASシグナルの下流であるNotchシグナルの老化誘導機構に着目し解析を行う事でNotchシグナルの活性化とTGF-βシグナルの不活化の相互作用による癌浸潤機序の解明を目的としている。2020年度は①RASシグナル活性化+TGF-βシグナル不活化癌臨床標本でのNotchシグナル関連因子の検証. ②Notchシグナル関連因子を標的とした浸潤機構の阻害による臨床応用への検証実験. について解析を行った。 ①では、公共データベースThe Cancer Genome Atlasの膵臓癌のデータを用いて統合解析を行い、KRAS(+)とTGF-βシグナルに変異が認められる膵臓癌において特異的に発現上昇している遺伝子群を抽出した。また生存曲線においてもその候補遺伝子の高発現している群では、予後不良の傾向が認められた。 ②では、膵臓癌や胃癌などの様々な細胞株に関して、まずNotchシグナル阻害剤のGSI(γ-secretase inhibitor)であるDAPTとLY-411575用いて増殖阻害の検証を行った。その結果、DAPTとLY-411575の双方の薬剤で高メチル化癌細胞株での増殖阻害効果を認めた。現在、浸潤能に対する効果も検証中である。 以上の結果から、Notchシグナルの活性化とTGF-βシグナルの不活化において特異的に発現亢進する候補因子を同定した。またNotchシグナル阻害剤GSIの臨床応用への可能性を提示した。
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