研究課題
悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)は化学療法や通常の放射線の治療効果が不十分であり、その標準治療は手術治療のみである。多くの新規抗がん剤や標的治療が開発されている現在でも、MPNSTに対して有効な新規薬剤の情報はない。本研究の目的は、MPNSTにおいてヒアルロン酸合成阻害剤である4-methylumbelliferone(4-MU)による既存抗がん薬の抗腫瘍効果の増強作用を評価することで、実現可能な治療戦略を開発することである。研究実績として、令和元年度は主にin vitro実験を中心に進めた。ヒトMPNST細胞株(sNF96.2、sNF02.2)を用いて、4-MU 投与下における腫瘍細胞周囲および細胞内ヒアルロン酸の評価について、particle exclusion assay にて細胞周囲マトリクスの可視化、ELISA にて細胞内/細胞周囲/培養液中のヒアルロン酸濃度測定をおこなった。ヒアルロン酸合成酵素(HAS1-3)とヒアルロン酸受容体CD44 発現についてペルオキシダーゼ標識した抗体による細胞免疫染色とmRNA 解析にて評価した。さらに、HAS1-3 とCD44 のsiRNA によるknockdown 条件下において、腫瘍原性がどう変化するか観察するためにMTS assay、invasion assay、migration assay により評価した。また、臨床検体でのvalidityを評価するために、MPNST患者の腫瘍組織を採取して培養、継代をおこない細胞株を樹立した。令和2年度は、樹立した細胞株について同様に、上記アッセイ、解析をおこなった。令和3年度は、ヒトMPNST細胞株による皮下移植マウスモデルの作製と生存解析、および移植腫瘍を用いたex vivo実験を実施した。患者から採取した腫瘍検体によるPDXマウスモデルの作製も試みた。
4: 遅れている
4-MUの抗腫瘍効果について、ヒトMPNST細胞株を用いた皮下移植マウスモデル作製(in vivo)は難渋したが達成できている。In vitroにおける抗がん薬の選定が済んでいないため、当面はヒトMPNST細胞株における各種抗がん薬のアッセイが優先される。MTTアッセイやアポトーシス活性をはじめとするin vitro実験では、ヒトMPNST細胞に対するダメージが臨床血中濃度を用いた場合に強く出てしまい、各種抗がん薬間の有意差を抽出できなかった。まずは細胞株に対する抗がん薬の至適濃度を同定することが急がれる。COVID19のパンデミックによる動物や試薬の納入が遅れたことで実験の進捗に影響がでた時期もあった。令和2年以降は研究代表者がCOVID診療応援の増加により、通常診療に加えて臨床業務に従事する時間が大幅に増えた。そのため、特定の研究日がなくなり現在も基礎研究に費やすエフォートは減少している。
有望な候補薬を抽出後に、薬剤輸送体に対する4-MU の作用の解析をin vitroでおこなう。MPNST 細胞株において、膜蛋白に存在する薬剤輸送体MDR1、MRP1、BCRPのmRNA と蛋白発現を評価する。各輸送体の抗体を用いて細胞免疫染色をおこない、抗がん薬および4-MU 投与による発現変化について評価する。抗がん薬および4-MU 投与による各輸送体のmRNAと蛋白量の変化について、リアルタイムPCR、ウェスタンブロッティングにより解析する。MPNST異種移植マウスモデルにおける腫瘍原性の評価 (in vivo)について、抗がん薬と4-MU 併用群、4-MU 投与群、抗がん薬投与群、コントロール群(vehicle)を作製し、各群における抗腫瘍効果、遠隔転移抑制、生存率曲線による生命予後を解析する。抗腫瘍効果については腫瘍重量および肺転移数の解析により局所および遠隔転移に対する効果を評価する。Ex vivo実験として、各群の異種移植腫瘍におけるヒアルロン酸、ヒアルロン酸合成酵素(HAS1-3)、薬剤輸送体蛋白発現を組織染色およびELISA(ヒアルロン酸)、mRNA(HAS1-3、薬剤輸送体蛋白)、ウェスタンブロッティング(薬剤輸送体蛋白)を評価、比較する。
次年度使用額が生じた理由として、実験計画で予定していた抗がん剤と4-MUによる抗腫瘍効果の相乗効果の測定と評価について進捗が遅れていること、予定していた学会参加のweb開催により、旅費に対する拠出が減っていることが挙げられる。使用計画)腫瘍マウスモデル作製のためのマウス購入費、飼育費および組織染色と各種アッセイに必要な抗体や試薬の購入のために研究費を使用する。今後、研究結果の発表に関連する学会および論文校正費用は必要となる。テレワーク普及による通信費(モバイルWifiルーター)の借用に対しても必要経費として計上する。
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