研究課題/領域番号 |
19K16788
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐々木 崇晴 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (60779718)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 食物抗原 / 腸管免疫 / 腫瘍 / T細胞 |
研究実績の概要 |
昨年度は10kDa以上の分子を除去した無抗原食で飼育した野生型マウスの小腸において、既報で報告されていた1型ヘルパーT細胞や制御性T細胞だけでなく、キラーT細胞の数が減少することを見出した。しかし、無抗原食はコントロール食と比べて大きく成分組成が異なっていることから、より厳密な検証を行うため、本年度はウシ血清アルブミン(BSA,~66kDa)を溶解させた無抗原食で飼育したマウスの小腸粘膜固有層から単離した白血球をフローサイトメトリーによって解析し、キラーT細胞の数が増加するか検証した。その結果、無抗原食で飼育したマウスと比べ、小腸粘膜固有層の1型ヘルパーT細胞、制御性T細胞、キラーT細胞の数がいずれも増加することがわかった。さらに、これらマウスを用いて小腸の免疫誘導組織であるパイエル板の解析を行ったところ、BSA添加によってパイエル板キラーT細胞の数も増加した。したがって、食物抗原がパイエル板を介して小腸におけるキラーT細胞を誘導することが示唆された。 次に、昨年度の研究では無抗原食で飼育したAPCminマウスにおいて小腸の腫瘍が増加する結果を得ていた。この点についてもBSAを無抗原食に添加する事によって腫瘍の数が減少するか検証するとともに、フローサイトメトリーによって小腸粘膜固有層と小腸腫瘍の白血球を解析した。その結果、BSA添加無抗原食で飼育したAPCminマウスでは小腸の腫瘍数がコントロール食で飼育したマウスと同程度まで回復することがわかった。また、このマウスの小腸粘膜固有層では1型ヘルパーT細胞が、小腸腫瘍ではキラーT細胞が増加した。以上の結果から、食物抗原はT細胞の誘導を介して小腸における抗腫瘍効果を発揮することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食物抗原が腸の免疫細胞の誘導に与える影響を検証するにあたり、コントロール食と無抗原食との成分組成の違いが問題であったが、BSAを無抗原食に添加することによってこの点を克服する実験系を立ち上げることができた。この実験系を用いて、食物抗原が小腸のキラーT細胞の誘導に働くことを結論付けることができたとともに、これまでに報告されていた1型ヘルパーT細胞や制御性T細胞の誘導についても、既報に比べてより厳密な証明方法によりその再現性を示したことになる。また、同様の方法を用いることによって、食物抗原がAPCminマウスの小腸において抗腫瘍効果を示すことに対し厳密な証明を加えることができた。したがって、これらの研究結果は当初の研究計画以上に進展した部分となった。 一方、パイエル板のT細胞についてもBSAを無抗原食に添加することにその数が回復することが見いだされたが、パイエル板が食物抗原による小腸の免疫系誘導にどの程度重要であるかという点や、ここにM細胞が関与するかという点については未だ決着がついていない。この遅延には新型コロナウイルス蔓延が関係しており、来年度に検証を行っていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
パイエル板やパイエル板を覆う濾胞関連上皮層に存在するM細胞が食物抗原を取り込むのか、あるいはパイエル板が小腸の免疫誘導にどの程度重要であるか、という点については未だ決着がついていない。この点について検証するため、妊娠マウスに抗IL-7Rα抗体を投与することによってパイエル板欠損マウスを作製し、このマウスに無抗原食を摂食させて小腸粘膜固有層の免疫細胞の解析を行う予定である。 また、パイエル板がAPCminマウスにおける腫瘍の発生に及ぼす影響についても調べる為、上記の実験方法を用いてパイエル板を欠損したAPCminマウスを作製し、腫瘍の数を数えるとともに、小腸粘膜固有層と腫瘍における免疫細胞の解析を行っていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延や緊急事態宣言発令による研究停止期間の影響により、一部の研究計画に遅れが生じたことが理由である。特に、パイエル板やその上皮を構成するM細胞が食物抗原による小腸T細胞の誘導に関与しているかという点について検証が進んでいないため、この点について研究を行う為の予算が次年度使用額として生じた。次年度はこの予算を用いて当初計画の完遂を目指す予定である。
|