本研究は、長鎖シークエンサーであるナノポアシークエンサーMinIONを用いて、肺がん細胞における転写産物の全長エキソン・イントロン構造を正確に決定し、がん新生抗原(ネオアンチジェン)となりうる異常転写産物を検出する手法を開発するものである。 本年度は、引き続きMinIONを用いて取得した全長cDNAシークエンスデータを解析し、肺がん細胞における転写産物の全長構造についてカタログ化を実施した。非小細胞肺がん臨床検体について、得られた全長cDNAシークエンスデータから転写産物の全長構造を網羅的に同定し、細胞株の解析にて構築した解析パイプラインを駆使して、異常な構造を持つ新規転写産物を抽出した。また、対応する非がん部についても全長cDNAを解析し、非がん細胞で発現している転写産物を候補から除外した。さらに同定した転写産物構造上に、点変異をマップし、がん特異的なペプチド配列候補を抽出した。細胞株の解析と同様に、NetMHCを用いてHLAとの結合親和性を予測し、ネオアンチジェン候補を抽出した。一部のペプチドについては、ELISpotアッセイを行い、抽出したネオアンチジェン候補が免疫応答の活性化を引き起こしうるか評価した。得られた臨床検体のシークエンスデータはNBDC・DDBJ JGAに制限公開データとして登録した。 検出した異常転写産物について、実際にどの程度の肺がん検体がそれらを有しているのか調査した。TCGAのショートリードRNA-seqデータを解析し、異常転写産物のスプライス部位の検出を試みた。その結果、異常転写産物が多く検出された症例には、異常mRNAの蓄積に寄与すると考えられるNMD関連因子に変異を持つ症例が有意に多く含まれていた。これらのゲノム変異は異常転写産物およびそれらから生じるネオアンチジェン数を予測しうるマーカーとなる可能性が示唆された。
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