研究課題/領域番号 |
19K16804
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
伊藤 寛 佐賀大学, 医学部, 助教 (50795375)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膠芽腫 / NDRG1 / GSK3β / DIF-1 |
研究実績の概要 |
[目的]膠芽腫の有効な治療の開発には、生存/増殖を制御する中心的な分子経路の解明が必要である。NDRG1発現は神経膠腫や様々ながんで良好な予後に相関するが、詳細な機序は不明である。本研究はNDRG1が膠芽腫の予後に関わる機序を解明し、NDRG1を標的とした新たな治療創出を目的とした。 [方法]免疫染色で患者腫瘍のNDRG1発現を解析した。膠芽腫細胞のNDRG1発現を変化させ、増殖、細胞周期、シグナル活性をフローサイトメトリ、イムノブロットで解析した。DIF-1のNDRG1誘導効果を検証し、体内動態をHPLC・GC/MSで、抗腫瘍効果を膠芽腫移植マウスで検証した。 [結果]①NDRG1発現は患者予後に正に相関した。②NDRG1抑制は膠芽腫細胞増殖を亢進し、GSK3β、AKT/S6活性を促進した。この効果はGSK3β阻害剤で相殺された。③NDRG1過剰発現はGSK3β、AKT/S6活性や細胞周期進行、増殖を抑制した。④NDRG1はGSK3βの、GSK3βによるリン酸化はNDRG1の安定性を低下させた。⑤DIF-1はNDRG1発現を誘導し、同所移植腫瘍の増殖を抑制した。 [考察・結論]NDRG1はGSK3βを介し、生存/増殖や細胞周期に関わるシグナルを抑制し、膠芽腫細胞の増殖を抑制する。DIF-1は血液脳関門を通過可能であり、DIF-1を用いたNDRG1標的は新たな有効な膠芽腫治療になり得る。 以上の、中間結果をまとめCancer research誌に投稿、採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
NDRG1はGSK3βを介し、生存/増殖や細胞周期に関わるシグナルを抑制し、膠芽腫細胞の増殖を抑制することを明らかにした。DIF-1は血液脳関門を通過可能であり、DIF-1を用いたNDRG1標的は新たな有効な膠芽腫治療になり得ることを明らかにした。 以上の、中間結果をまとめCancer research誌に投稿、採択された。
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今後の研究の推進方策 |
NDRG1が膠芽腫増殖を抑制する因子として機能していることを明らかにし、DIF-1は生体内のNDRG1発現を上昇させることを明らかにすることができた。 しかし、DIF-1がNDRG1発現を上昇させる正確なメカニズムに関しては不明のままである。 今後はDIF-1がNDRG1発現を制御するメカニズムを明らかにすること、さらにDIF-1を基礎とした構造類似化合物を用い、より効率的にNDRG1発現を制御でき、より有効に膠芽腫の増殖を抑制する物質の探求が必要である。また、研究過程の副次結果としてDIF-1はがん遺伝子であるc-MycやN-myc発現を抑制することを明らかにしたため、DIF-1によるNDRG1制御はMycがドライバーとなっている脳腫瘍、例えば髄芽腫などの治療にも応用可能な可能性がある。DIF-1によるNDRG1制御がMyc発現に与えるメカニズムを明らかにすることで、Mycがドライバーとなる悪性脳腫瘍の治療にもトランスレーション可能かも探求する。
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