研究課題
近年の分子標的治療は目覚ましい進歩を遂げている。肺癌においてはEGFR変異やALK融合遺伝子などをはじめとするドライバー変異を標的とした治療が行われているが、初期耐性や獲得耐性により、次治療の選択肢が減少することが問題となっており、その耐性克服が喫緊の課題となっている。治療抵抗性のメカニズムについての詳細な解析を行うためには、患者由来のがん細胞を用いることが重要である。本研究では気管支鏡生検などの生検検体や外科手術検体からオルガノイドを樹立し、バンキングを行う。これをリソースとして駆使することで、分子標的治療薬の耐性機構やその克服法の分子基盤の解明、治療効果予測因子の探索を行い、プレシジョンメディシンの実現を目指す。令和2年度は昨年度に続き、和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科において生検を受けた患者より提供された検体を用いて培養を行い、オルガノイド株の樹立を試みた。昨年度培養に成功したオルガノイドにはドライバー遺伝子変異陰性の株があり、変異解析のみでの検討では腫瘍細胞由来オルガノイドと判断するには不十分であった。そこで、腫瘍由来オルガノイドであることを確認するためマウスへの異種移植実験を行い、造腫瘍性を評価した。その結果、移植を行った殆どの株において腫瘍形成を認めた。また、EGFR変異陽性患者において標準治療不応後に樹立したオルガノイドの薬効評価を行い、その耐性克服にin vitroで成功した。
2: おおむね順調に進展している
・令和元年度に培養に成功したオルガノイドにおいて造腫瘍性を検討した結果、移植を行ったほとんどの株において腫瘍形成を認めた。・令和2年度は希少症例からのオルガノイド樹立に多く成功した。これらの症例でのオルガノイド樹立についての報告はなく、ユニークなオルガノイドライブラリが構築されたと考えられる。・当初予定していた1細胞解析については、樹立したオルガノイドの増殖が遅く、実験に適さなかったため未実施である。令和2年度で解析に適するオルガノイドの培養に成功したため、次年度に実施を予定している。以上、当初の計画よりも遅れている部分はあるが、概ね順調に進展していると考える。
令和3年度も引き続き新規のオルガノイド樹立および異種移植実験を継続する。現在はこれまで樹立されたオルガノイド、異種移植腫瘍、診断時組織を用いて組織学的評価を行っている。また遺伝子発現解析を行い、オルガノイドが原発組織の特徴を維持しているかを確認する。現在培養に成功している希少症例由来オルガノイドにおける遺伝子変異解析、発現解析、薬効評価を行い、治療効果のバイオマーカーについて検証するほか、耐性機構についても併せて解析を進める予定である。
年度末の物品納品の遅延により次年度使用額が生じる事となった。研究計画に特別な変更はない。
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