研究課題/領域番号 |
19K16807
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
高松 公晴 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00649874)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 透析腎癌 / 腫瘍微小環境 |
研究実績の概要 |
本年度は当施設が有する腎細胞癌検体のPDL1発現を免疫組織化学染色を用いて評価した。当院で1999年から2017年までに腎摘除を受けた140例の腎細胞癌検体(透析腎癌検体35例、淡明細胞型RCC105例)を用いた。全ての臨床組織から病理学的に腫瘍中心部(Center of tumor: CT)・腫瘍辺縁部(Invasive margin: IM)を抽出し、腫瘍内不均一性を克服する組織マイクロアレイを作成した。PDL1抗体に加えてCD8抗体で免疫組織化学染色を行った後に解析装置で自動化されたシングルセルカウントを実施した。その結果、PDL1発現は透析腎癌と淡明細胞型腎細胞癌で有意差を認めないものの、IMにおけるCD8発現は透析腎癌で有意に少なく(p=0.004)、透析患者における腫瘍免疫の低下を反映していると考えられた。これまで、透析腎癌患者では腫瘍免疫力の低下がその発癌に影響すると考えられてきたが、本実験の結果はこの仮説を裏付けるものである。一方、PDL1発現が透析腎癌と淡明細胞型腎細胞癌で同程度であることは、透析腎癌においてもPD-1/PDL1系を用いた免疫逃避機構が働いていることを裏付けるものである。 さらに我々は透析腎癌3症例と淡明細胞型腎細胞癌5症例の腎臓検体健常部と腫瘍部から次世代シーケンサーによる遺伝子解析を行った。その結果淡明細胞型腎細胞癌では腎細胞癌で代表的な遺伝子変異であるVHL変異を80% (4/5例)で認めたが透析腎癌症例ではVHL変異を認めなかった。 以上から、透析腎癌患者において抗PD1阻害薬単剤での抗腫瘍効果が不十分な機序は惹起すべきCD8+T細胞が少ないためである可能性が示唆された。さらに透析腎癌患者ではVHL変異が少ないことから抗PD1阻害薬と併用する分子標的治療薬としてmTOR阻害薬が有用な可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにヒト腎細胞癌検体合計140検体におけるPDL1発現とCD8発現の評価を行ってきた。さらに、腫瘍免疫の微小環境を評価するために免疫関連分子として獲得免疫系8分子(CD3、PD1、FOXP3、CTLA4、LAG3、TIM3、TIGIT、CD20)、自然免疫系5分子(CD68、CD163、CD47、SIRPα、CSF1α)の免疫染色とシングルセルカウントを完了した。それに加えて透析腎癌症例の次世代シーケンサーによる遺伝子解析も引き続き継続中であり、透析腎癌における免疫チェックポイント阻害薬の標的分子の発現と腫瘍微小環境の関係について評価を行っている。 実験当初はPDL3に関しても評価を行っていたが、PDL3発現は透析腎癌症例で弱く、またPDL3抗体による安定したPDL3発現が困難であることからPDL1発現を評価した。その際に、透析腎癌という希少癌における腫瘍微小環境の評価も同時に必要であると考えられたため、複数分子を同時に評価することとした。複数分子の評価のため、組織マイクロアレイを作成した。現在までに免疫組織化学染色は完了しており、進捗状況は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに獲得免疫系8分子(CD3、PD1、FOXP3、CTLA4、LAG3、TIM3、TIGIT、CD20)、自然免疫系5分子(CD68、CD163、CD47、SIRPα、CSF1α)の免疫染色とシングルセルカウントを完了した。今後はこれら分子の発現を透析腎癌と淡明細胞型腎細胞癌で比較することで両者の腫瘍微小環境の違いを明らかにする。さらに、遺伝子解析の結果を加えることにより、両者の発がんメカニズムや微小環境の違いの原因が分子生物学的に明らかにしていきたいと考えている。 現在透析腎癌細胞モデル細胞株(KU20-02)、初期ccRCCモデル細胞株(786-O)、転移性ccRCCモデル細胞株(Caki-1)におけるPDL1発現について評価を行っている。今後はPDL1発現の強弱と抗PDL1阻害薬の治療効果の関係をWSTアッセイで評価する予定である。さらにmTOR阻害剤(FKBP12)との併用による抗腫瘍効果をWSTアッセイとFACSによるアポトーシス誘導について評価する予定である。薬剤投与前後での細胞内シグナル伝達経路の変化はPI3/Akt/mTOR経路PCRアレイを用いて評価しup/down-regulationされる蛋白質を同定することで、併用時の抗腫瘍効果の作用機序について解明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度主に免疫染色とその評価を行った。翌年度において、細胞実験を行う予定である。細胞実験に際してPDL3とmTOR阻害薬を併用した際の抗腫瘍効果に加えて、変動する蛋白を評価するためにパスウェイ解析を行う予定としており、助成金を使用する予定としている。
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