研究課題
治療関連骨髄性腫瘍 (therapy-related myeloid neoplasm: t-MN)は化学療法や放射線治療後を行った患者において予後に直結する重要な合併症である。近年、骨髄異形成症候群の疾患背景としてclonal hematopoiesis of indeterminate potential (CHIP)の存在が注目されている。治療関連骨髄性腫瘍の一次腫瘍として造血器腫瘍では悪性リンパ腫が最も多い疾患であるが、様々な抗癌剤を使用するため、t-MNの発生機序は一元的ではない。本研究では次世代シークエンス技術を用いて、特定の部位に限って高重複度で塩基配列解析を行い (Targeted deep sequencing)、悪性リンパ腫診断時の骨髄におけるクローン性造血を解析することで、t-MN発症の潜在的リスクを予測することを目的とした。当院で悪性リンパ腫に対して治療した後にt-MNを発症した症例を対象とし、悪性リンパ腫発症時の骨髄単核球とt-MN発症時の骨髄単核球、リンパ節病変の病理ブロックを用いて、targeted deep sequencingによる検討を行なった。その結果tMNを発症した症例の80%で悪性リンパ腫初診時の骨髄ですでにクローン性造血が存在することが明らかになった。さらに予想に反して、悪性リンパ腫発症時に認められたクローン性造血の主要クローンにはその後発症するt-MNと共通するクローンは一例にも認められなかった。この結果は化学療法前のクローン性造血の存在は化学療法により新規のクローンが出現しやすいようなクローンの不安定性がある可能性を示唆していると考えられた。以上を論文発表し、今後新規症例での前向きな検討を計画している。
3: やや遅れている
初年度より継続しているすでにt-MNを発症している症例での解析及び報告は行えているが、新規症例の検討に必要な臨床サンプルの保存が目標の検体数に達していないのが現状である。引き続き検体収集を行っていく予定である。
悪性リンパ腫診断時の骨髄検体におけるクローン性造血の有無、また検出される遺伝子変異がt-MN発症に関連しているかを評価する。これらの結果をもとに今後、新規の悪性リンパ腫症例を対象とした治療前後での骨髄検体を用いた化学療法の強度とt-MN発症リスクを評価する前向き試験に向けたプラットホームを作成する。
コロナウイルス感染の社会的問題の影響で出席予定であった国際学会の延期・中止などがあった。また検体サンプルの集積が送れており、予定実験が次年度に繰越となった。次年度では予定されている研究及び発表を遂行する。
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巻: - ページ: -
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