頭頚部癌に対しては、従来からシスプラチンなどの抗癌剤が使用されてきた。しかし、この治療法は特異性が低く、特に固形癌において完全寛解はほぼ期待できない。近年盛んに開発が進んでいる分子標的薬は、主に血液癌や肺腺癌・腎癌・乳癌など一部の癌に適応が限られており、頭頚部癌を含む他癌種においては未だ有望な標的薬がほとんど開発されていない。 最近、癌細胞のなかでも造腫瘍性・治療抵抗性の高い亜集団(癌幹細胞)の同定が進み、それを標的した治療法の開発が盛んに行われている。私たちのグループは、下咽頭癌においてはX陽性細胞が高い増殖能と造腫瘍能を持つことを明らかにしてきた。さらに、独自にヒト化抗X抗体を樹立し、PDX担癌マウスを用いてXを標的とした抗体治療を実施したところ、腫瘍縮小効果を認めた。しかし、縮小効果は完全ではなく、更なる検討が必要だと考えた。本課題では、X標的治療のproof of conceptをさらに蓄積するための検討を進める。本課題では、ノックアウトマウス等を用いてX分子が治療標的となるかどうかの検証を進める。 本年度は、昨年度に引き続き、X分子ノックアウトマウスの食道癌発癌モデルを検討した。また、肺扁平上皮癌もでるも樹立をこころみ、X分子の影響を検討した。病理学的な検討に加え、細胞株を用いた検証実験も進めた。さらに、細胞株を用いてX分子の機能解析を行った。また、X分子と会合する分子を網羅的に同定した。その中から、X分子と協同して働く候補分子を同定した。X分子はY分子と会合し、転写制御を行う可能性が示唆された。以上から、X分子ががんの悪性度を亢進させる分子機構の理解が深まった。
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