研究課題/領域番号 |
19K16818
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平松 寛明 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (70827253)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | dCas9 / クロマチン免疫沈降法 / 共免疫沈降法 / 部位特異的ChIP法 / 転写因子複合体 / タンパク質間相互作用 |
研究実績の概要 |
腫瘍内に浸潤した腫瘍関連マクロファージ (TAM)から分泌される抗炎症性サイトカインは、腫瘍局所において抗腫瘍免疫応答の抑制に働く。免疫抑制性の腫瘍微小環境下では、免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法の効果も減弱すると考えられる。そこで、抗炎症性サイトカイン遺伝子を転写レベルで制御することを目標として、遺伝子発現制御に関わる転写因子複合体を同定することを試みた。 抗炎症性サイトカイン遺伝子の発現制御に関わる因子として既に明らかになっているSWI/SNF複合体を足掛かりにして、共免疫沈降法を用いた転写因子複合体全体の解析を試みた。しかしながら、抗体の結合力や結合部位等の問題により、質量分析に必要なタンパク質量を確保することが困難であった。また、マウスとヒトのマクロファージの発現制御の違いや、特定の抗炎症性サイトカイン遺伝子のプロモーター領域のみを特異的に解析することが困難であるといった問題も存在する。ヒト由来の細胞からプロモーターの部位特異的に共免疫沈降を行うには、新たな実験手法の開発が必要であった。 そこで、dCas9とsgRNAを用いた新たな部位特異的ChIP法の開発を行った。この手法は、sgRNAを変更するだけでマウス、ヒトといった種に縛られないあらゆる遺伝子のプロモーター領域の解析に有効であるため、より詳細な転写因子の解析に大きく貢献することが期待される。さらに、抗体の品質に依存しないため、これまで解析が困難であったタンパク質間相互作用の解析にも、応用可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たな実験手法として、大腸菌発現系で作製したdCas9と人工合成したsgRNAを、細胞を固定・ソニケーションして得られたゲノムDNA-タンパク質複合体と混合して、sgRNA依存的に免疫沈降する手法を開発した。dCas9の回収に非共有結合の中でも極めて結合力が強いビオチン-ストレプトアビジン結合を利用するために、大腸菌内でdCas9をビオチン化できるよう発現プラスミドを再構築した。 ビオチン化dCas9タンパク質を発現させて、回収することには成功したが、様々な条件を比較する実験において安定した結果を得るには、均質なリコンビナントタンパク質を多量に準備する必要がある。現在、タンパク質の発現量を増加させつつ、高効率で回収が行える方法を検討中である。より直接的に免疫チェックポイント分子の発現制御についても解析を行うため、T細胞のPDCD1遺伝子のプロモーター解析を行うべく、sgRNAの条件検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
リコンビナントビオチン化dCas9タンパク質の準備が完了し次第、PD-1やTIM3、LAG3、TIGITなどの免疫チェックポイント分子対象とした、部位特異的ChIP法のプロトコルの最適化を目指す。細胞数やsgRNAの評価を行うために、成人T細胞白血病/リンパ腫 (ATL)由来細胞株を用いて条件検討を行う。細胞株によってPD-1等の免疫チェックポイント分子の発現レベルが異なり、かつ、TCR刺激やサイトカインへの応答性も異なるため、複数の細胞株の中から最も適した細胞株と免疫チェックポイント分子の発現を誘導するための刺激の種類・時間を検討する。同時に、ヒトPBMCを用いた部位特異的ChIP法を行うために最適な、リンパ球や単球細胞の培養条件等の検討も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度途中に国立がん研究センターから名古屋大学への移動が生じたため、引っ越し等の手続きにより助成金を使用できない期間が生じた。今年度は、新たにヒトPBMCを用いた実験を行うため、培養等に必要な消耗品や試薬に使用予定である。また、質量分析については、名古屋大学の共通機器室が利用できるため、機器の利用費等にも使用予定である。
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