背景: IDH-wildtype(IDHwt)gliomaは最も頻度の高い髄内腫瘍で、WHO分類では全て最悪性のglioblastoma(GBM)と診断される。一方、臨床的には緩徐に増大する症例が存在する。本研究では緩徐増大期の腫瘍を“IDHwt indolent diffuse glioma: iDGwt”と定義し、典型的なGBMと臨床的、分子生物学的に比較して、決定的な遺伝子的差異を探索した。 対象と方法: 2011年-2020年の自験例から、増強効果が乏しく、術前の増大が緩徐であった症例を抽出し、iDGwtとした。遺伝子変異と染色体異常は次世代シークエンサーで解析し、治療反応性に関わるMGMT promoterのメチル化はパイロシークエンシングで解析した。iDGwtの分子生物学的特徴と臨床転機について、The Cancer Genome Atlasの参照コホートと比較した。 結果: 180例中、9例がiDGwtに該当した。GBMで頻度が高いMAPK経路、TP53経路、RB経路の異常に注目すると、各々8例(88.9%)、4例(44.4%)、1例(11.1%)が異常を示した。RB経路の異常の頻度は参照コホート(77.6%)よりも有意に低かった。iDGwtでは2例(22.2%)がEGFR遺伝子増幅を示し、GBMの診断基準を満たしたが、参照コホートでは96.7%がGBMに該当し、有意差がみられた。iDGwtの全生存期間(中央値37.5か月)は参照コホート(中央値13.9か月)よりも有意に良好であった。 結語: iDGwtはMAPK経路の異常を除いてGBMの特徴を欠いており、このような差異が悪性化に関連すると考えられた。 実績: 本研究の結果はJournal of Neuro-oncology誌に掲載された(J Neurooncol. 2022 Sep;159(2):397-408)。
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