研究実績の概要 |
がん分子標的薬の中で,血中薬物濃度と治療効果・毒性の関連に関して先行研究の蓄積の多い,パゾパニブに着目して研究を進めた.実験動物(ラット)血漿に既知濃度の標的薬物を生体外で混和して実験に用いたところ,パゾパニブの臨床的な至適血漿中濃度域をカバーする0-150μMにおいて,ダイヤモンド電極で観察された電流から直線的な検量線(n = 8, R2: 0.9552)を得ることができ,血漿薬物濃度を測定する系が確立された.この系では,1回の測定時間は~35秒,サンプル調製に要する時間を合わせても~10分,1回の測定に必要な全血は~60 μLと見積もられ,従来の質量分析計(LC-MS)による測定と比べ,所要時間が短く,簡便,安価な測定法となる可能性が示された.次に,標的薬物をラットに経口投与し,その後,複数回の採血で得られた血漿を用いて実験を行った.先述のダイヤモンド電極を用いた測定系により,血漿薬物濃度が投与後~4時間に上昇のピークを示したのち,24時間後にはほぼベースラインまで低下するという,先行研究で示された薬物動態と類似の結果を観察することができた.現在,これらのラット血漿サンプルに加え,臨床研究として,がん分子標的薬を実際の治療で使用する患者の同意のもと,~40例のヒト血漿サンプルを採取・保管しており,ダイヤモンド電極法を用いてこれらの薬物濃度の測定を進めている.これらの血漿サンプルの薬物濃度については,従来法であるLC-MS法でも同時に測定を行い,ダイヤモンド電極法で得られた測定結果の妥当性を検証する予定である.今後,測定系の見直しにより,当初の目的である,より迅速,簡便,安価な血中薬物濃度測定法の創出を目指す.また,より多彩な薬剤の血中濃度測定を目指し,各薬剤における測定法の最適化,動物・ヒト血漿を用いた検証実験を継続中である.
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