がん遺伝子産物RASは膵臓癌・大腸癌を含む約30%のがんで活性化されている。活性型 RASはがん治療標的として最重要視されているものの一つで、MEK/ERKとAKT/mTORシグナル経路を活性化することでがんの発生・維持・増殖を促進する。これらのことから、RAS阻害剤の開発が世界的規模で進められているが,RASタンパク質の構造特性および細胞内局在から、従来の創薬手法によるRAS阻害剤の開発は困難を極めてきた。 本研究では,これまでほとんど研究対象とされてこなかった「細胞膜透過性タンパク質」に着目しRas阻害剤開発に取り組む。本年度の研究においては、初年度に実施したスクリーニングで見出したリードタンパク質のin vivo試験と合成展開におもに取り組んだ。膵臓がん細胞と大腸癌がん細胞を移植したヌードマウスを作製し、リードを尾静脈経由で連日20-40 mg/Kgの容量を投与した。しかし、期待していた抗腫瘍効果は認められなかった。リードの血中安定性を測定したところ、数分から数十分程度と極めて短いことが分かった。ゆえに、リードの合成展開を行いリンカーや末端のアミノ酸配列を改変した約100種類の誘導体を合成した。その結果、試験管内活性が向上した誘導体や血中安定性が向上した誘導体を複数個得ることができた。 その他、リードの開発経緯をまとめた論文を執筆し学術雑誌に投稿した。また、必要な追加実験を行い、リードの学術的エビデンスを確立させた。
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