研究課題/領域番号 |
19K16830
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 大介 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (90759375)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | TRPV1 / 腫瘍免疫 / 樹状細胞 / CD8陽性T細胞 / ヒト免疫 |
研究実績の概要 |
本研究では、温度センサーの一種であるTRPV1受容体の作用に着目し、TRPV1シグナルによる炎症誘導ががん免疫応答を向上させるメカニズムを解明し、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を増強できる因子を見出すことを目的とする。本年度は主にマウス大腸癌細胞株MC38と肺癌細胞株LLCの2種類のがん細胞株を用いた検討をおこなった。初めに、TRPV1シグナル伝達による直接的な癌細胞殺傷効果を検討するため、細胞株にTRPV1のアゴニストであるカプサイシンを作用させたところ、一定の細胞殺傷効果を示すことが分かった。さらに、抗PD-1抗体治療効果が見られない投与タイミングにてTRPV1のアゴニストであるカプサイシンを使用することで抗PD-1抗体治療による腫瘍退縮効果を発揮できることを示した。また、がん細胞株を生着させたマウスにカプサイシンを作用させ、脾臓・リンパ節・腫瘍組織から免疫細胞を回収し、TRPV1シグナル伝達による各種免疫細胞動態変化をフローサイトメトリー法により解析した。その結果、リンパ節および腫瘍組織に浸潤する樹状細胞が活性化していることが分かった。TRPV1シグナル伝達の作用がヒト免疫系における影響を検討するため、健康人末梢血単核球から樹状細胞を誘導し、カプサイシンを作用させたところ、活性化分子発現の増強が確認できた。これらの研究成果から、TRPV1シグナル伝達による免疫系の向上効果はヒトおよびマウスの両方においても確認できたため、マウスモデルにおいてがん免疫応答におけるTRPV1シグナルの作用メカニズムを解明することで、ヒトに応用できる可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、2種類の癌細胞株を用いた検討によりTRPV1シグナル伝達による免疫応答向上効果が抗PD-1抗体治療効果を増強できることを示した。これによりTRPV1シグナル伝達と抗PD-1抗体治療との併用効果が広く利用できる可能性がある。さらに、TRPV1シグナル伝達による免疫系の変化を解析したところ、樹状細胞の活性化が誘導されることを見出し、TRPV1シグナル伝達によるがん免疫応答の向上に起因する主要免疫細胞を特定することができた。また、ヒト樹状細胞においてもTRPV1シグナル伝達により活性化されることを見出すことができ、本研究課題がヒトに臨床応用できる可能性を強く示唆できる実験成果を得た。これらの実験結果から、TRPV1シグナル伝達による免疫応答変化フェノタイプを見出すことができたため、来年度ではこの免疫応答変化の分子メカニズム解明のための遺伝子解析およびタンパク質発現解析実験に移行することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究展望として、今年度に見出したTRPV1シグナル伝達による樹状細胞活性化における分子メカニズムの解明を進める。カプサイシンを作用させた担癌マウスのリンパ節および腫瘍組織から樹状細胞を回収し、RNAを抽出・精製する。得られたRNAを用いたRNAシーケンス解析を実施し、TRPV1シグナル伝達により発現上昇する遺伝子群を見出し、樹状細胞活性化に起因する遺伝子を同定する。本RNAシーケンス解析をヒト樹状細胞においても実施し、ヒトおよびマウスにて共通する遺伝子を選定する。選定した遺伝子について、リアルタイムPCR法およびフローサイトメトリー解析を実施することで、TRPV1シグナル伝達により選定した遺伝子およびそのタンパク質が発現上昇することを確認する。これらの実験結果から、TRPV1シグナル伝達により活性化する免疫系において重要な因子を同定し、その因子を標的とした新規治療法の開発に向けたPOC確立を目指す。
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