当初、腫瘍内血管を中心に解析する予定であった。しかし、初年度に実際に解析を行うと、予想以上に腫瘍内血管内皮細胞の細胞数が少なく、評価可能な系を構築することが困難であった。そこで、『通常型膵癌にTILを増加させる新規免疫療法の開発』という原点に戻り、まずは主要免疫細胞サブセットの推移を解析した。この解析の結果、再現性をもって継時的に増加している細胞群として、G-MDSC/好中球を同定した。一方、目的のCD8陽性T細胞の割合は一定の割合で頭打ちになっている印象であった。次に、血管内皮細胞ではなく、遊走因子からのアプローチとして、ケモカインの解析を行った。正常マウス膵管上皮細胞に、膵前がん病変細胞オルガノイド(Kras変異のみ)浸潤性膵癌細胞オルガノイド(Kras変異+TP53ノックアウト)を用いて、培養上清中に分泌されたタンパク質の網羅的解析(セクレトーム解析)を行った。解析の結果、浸潤性膵癌細胞オルガノイドで有意に分泌が増加してる2種類のタンパク質を同定した。その内、ケモカインの一種であったXに着目し、解析を進めた。まず、ELISA法にて、実際にケモカインXが浸潤性膵癌細胞オルガノイドで有意に分泌が増加していることを確認した。次に、ケモカインXに関連する遺伝子群として、遺伝子Aに着目した。遺伝子Aノックアウトマウスを用いて、遺伝子Aがマウス膵癌同所移植モデルにおける腫瘍の増殖に影響を及ぼすかを検討した。その結果、遺伝子Aノックアウトマウスでは、野生型マウスに比較して、腫瘍の増大が有意に抑制された。
|