研究課題/領域番号 |
19K16846
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
ソバティ ソフィア 公益財団法人がん研究会, がん研究所 病理部, 研究員 (80774158)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 甲状腺癌 |
研究実績の概要 |
甲状腺癌は、甲状腺の濾胞上皮ないし前駆細胞由来とされ、組織病理学的には分化癌(乳頭癌、濾胞癌)、未分化癌に大きく分類される。甲状腺癌において最も発症頻度が高い乳頭癌の10年生存率は90%以上あり、甲状腺癌全体としては予後良好とされる。しかしながら、全甲状腺癌の1~2%程度である未分化癌は、1年生存率16%程度と予後不良である。主として未分化癌は乳頭癌を含む分化癌から転化すると考えられているが、そのメカニズムにはいまだ不明点が多く、未分化転化しやすい分化癌を抽出するバイオマーカーも確立されていない。未分化癌は、世界的に組織試料とくに凍結試料に乏しく、さらに同一患者における分化癌と転化後の未分化癌の両方の凍結試料が保存されている例は極めて少ないことが、研究の遅れの原因のひとつである。 本研究では、極めて貴重な同一症例内で分化癌と未分化癌の凍結試料を用いて、全ゲノムシークエンスを含むシークエンス解析を行い、分化癌の未分化転化を規定・予測する遺伝子異常の同定を行うこと。さらに、臨床的発見様式の異なる未分化癌の遺伝子異常を比較し、分化癌から未分化癌への転化を特徴づける遺伝子群を同定し、その不明であった未分化転化メカニズムを明らかにすることを通じて、患者層別化の「過剰治療」の回避、経過観察中の担癌生存患者における未分化転化に対する心理的負担の軽減、真の高危険度乳頭癌群に対する積極的治療の検討、などの診療オプションの創造ないし確度の向上をめざし、甲状腺癌患者のQOL向上に貢献すること、を目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究遂行の過程において、同一症例内での分化癌と未分化癌の凍結試料を収集するのは容易ではないことを改めて強く認識した。 甲状腺未分化癌は極端に予後が悪く、ほとんどの症例は手術に到らないため、検体の入手が困難である。さらに、この研究の独自性である同一症例内における高分化癌とのペア解析が困難さを一層のものとしている。未分化癌の検体は比較的多く集積したが、凍結検体を組織学的にチェックする過程で、同一症例内で高分化癌のあとに未分化癌が発症したと思われた異時性症例の凍結検体中に、すでに悪性度の低い未分化癌が多く併存していたことが判明した。また、肉眼的に未分化癌と思われた部位から採取した凍結検体小片には、乳頭癌・濾胞癌のような分化癌の成分が混在していることも多く、それを正確に分化癌成分と未分化癌成分として核酸を抽出することが課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
全ゲノムシークエンス解析は進行中である。 肉眼的に、高分化癌成分、未分化癌成分、として採取された小片に他方の成分が混在していることが多いという問題を踏まえて、より正確な組織病理学的検討が可能なFFPE検体も対象とすることを計画している。組織病理学的、臨床データの再検討を行った上で、マイクロダイセクションを行う。所属している病理部では、組織病理学的な事項や手法について経験豊富の病理学者と研究助手の支援を得られるため、より正確に凍結検体またはFFPE検体から分化癌成分と未分化成分を摘出できると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行の過程において、重要である検体収集や検体の組織学的にチェックに時間がかかって、今年度の進捗はやや遅れているため。
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