研究課題/領域番号 |
19K16851
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
佐藤 友美 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 プロテオームリサーチプロジェクト, 特任研究員 (10333353)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん転移 / スフェロイド / 初代培養 / プロテオミクス |
研究実績の概要 |
血流を介した遠隔転移の確立過程は血中循環がん細胞塊が血管内皮細胞に接触、接着することを起因とし血管内皮細胞のバリア機能が破綻した後、がん細胞塊の浸潤、生着を許すことで完了する。この過程で細胞間に生じるシグナル伝達をリン酸化プロテオミクス解析により明らかにすることを目指している。 今年度は昨年度樹立した患者腫瘍由来のマウス移植腫瘍から調整した初代培養スフェロイドを用いプロテオミクス、リン酸化プロテオミクスを行うためのサンプル調整法、解析条件を検討し確立した。 微量細胞からの質量分析サンプル調整法の改良:解析予定の腫瘍由来初代培養スフェロイドは増殖が遅く準備できる細胞量が少ないため微量タンパクからのリン酸化ペプチド濃縮法を検討した。存在量の少ないリン酸化ペプチドの検出には金属イオンを用いた濃縮、精製が行われており用いる金属イオンの違いにより親和性の違いが報告されている。そこでこれまで行ってきた鉄イオンによる精製に加え、非吸着画分からの二酸化チタンによる再回収を組み合わせることでリン酸化ペプチド同定数を増やすことができた。 血管内皮細胞とがん細胞特異的タンパクによる共培養時の細胞割合同定法の確立:二種類の細胞を共培養した場合、実際に接着確立するがん細胞数は実験ごとに大きくばらつくことが確認された。そのため二種類の細胞の構成割合が異なるサンプル間でのシグナル変動評価は困難であると考え、サンプル内に存在する二種類の細胞の割合を推定するため質量分析で検出可能な細胞種特異的タンパク質を特定した。 浮遊がん細胞塊の接着時に変動するシグナル同定法の確立:二種類の細胞の構成割合が一定しないサンプルを用いた変動シグナル同定が複雑であるためがん細胞塊のみを用いて接着過程におけるシグナル変動を同定する方法を検討した。予備検討の結果、浮遊がん細胞の生着過程で生じる間葉-上皮転換を示す傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
微量サンプルからのリン酸化ペプチド濃縮法の改良とがん細胞塊のみを用いた接着確立過程に関連するシグナル変動同定法は実験系の確立を完了し順調に進行している。 しかし血管内皮細胞とがん細胞塊の共培養実験における細胞間シグナル変動の同定については実際の細胞サンプルを準備する段階で血管内皮細胞に接着する浮遊がん細胞塊の数が初代培養調整後の培養期間や培養時のディッシュの移動などで低下、変動する傾向が認められた。そのため単に継時的に収集したサンプルのプロテオミクス解析では二種の細胞の構成割合の違いにより結果が大きく変動しがん細胞接着過程に関与するシグナル変動の同定が困難になることが予想された。この問題への対処法として細胞種特異的タンパク質の同定によりサンプル内の細胞構成割合を推定し、同様の割合で構成した比較対象群を準備することで細胞構成割合の違いによるシグナル変動への影響を排除しがん細胞接着過程に関与するシグナル変動を抽出することを考えた。 これまでに質量分析結果から各細胞種特異的タンパク質を同定し血管内皮細胞とがん細胞の共培養サンプル内での構成割合を推定する系の確立を完了した。すでに本解析サンプルの各細胞特異的タンパク質の同定用質量分析を完了しており今後、細胞種特異的タンパク質の検出シグナルの強度を解析することで二種の細胞の構成割合を算出し比較対象サンプルの準備をして接着過程における変動シグナルの同定を進める予定である。 がん細胞接着過程に関連するシグナル同定のために当初予定していなかった細胞構成比率の変動を考慮し影響を排除する新たな解析手順の確立が必要になったことでやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析サンプル準備過程において血管内皮細胞に接着する浮遊がん細胞塊の量は培養期間などの要因で大きく変動することが明らかになりコントロールが難しく実験ごとのばらつきが大きいことが予想された。このため新たに解析サンプル内の二種の細胞の構成割合を推定し同様の割合で混合した比較対象群を準備することで細胞種の構成割合の違いによる影響を排除してがん細胞接着過程におけるシグナル変動を同定する形で解析を進めることに変更した。しかしながらこの細胞の構成割合の変化はがん細胞接着過程の進行と同時に変化し続けることからデータ解析は大変複雑になることが予想される。 そこで上記のような二種類の細胞種の構成割合と接着過程進行による変化を考慮した複雑な解析系に対しがん細胞側のみに注目したシンプルな実験系を用いることで浮遊がん細胞の接着過程における変動シグナルの同定を推進する解析を同時に進めている。こちらの解析を優先することで候補分子の同定及び検証実験を進め、共培養系で得られる結果の検証に反映させたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:研究に使用する患者由来マウス移植腫瘍、初代培養スフェロイドの入手、樹立が初年度に遅れたこと、今年度共培養系において浮遊がん細胞塊の接着率が実験ごとに大きく変動することからサンプル内の二種類の細胞の構成割合の違いを排除した解析系を新たに検討、確立する必要が出てきたことで2020年度は解析系確立のための検討実験が中心になった。そのため候補分子の同定に至らず検証実験に必要となる候補分子に対する抗体類などの購入がずれ込み次年度使用が生じた。 またコロナ禍でサンプル調整のために必要な動物実験を減らしたためマウス購入費用が予定より減少したことも次年度使用の発生につながった。 使用計画:プロテオーム解析から転移確立過程に関与する分子の候補が推定できた段階でそれら候補分子の機能解析のために抗体や阻害剤の購入が必要となる。また検証実験のための初代培養細胞実験、血中循環がん細胞塊の転移モデル確立のためのマウス実験も増加する予定であり初代培養培地と実験動物購入費用が増加する予定である。
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