研究課題/領域番号 |
19K16853
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
池田 隼人 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (30649083)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | RI製造 / カラムクロマトグラフィー / モリブデン-99 / 白金-195m / アスタチン-211 / キャリアフリー / 加速器 |
研究実績の概要 |
本課題では加速器を用いることによる,モリブデン-99,白金-195mおよびアスタチン-211の製造とその適切な化学分離法を検討することを目的とした。どの核種も核医学の分野で治療や診断に向けた研究が行われている核種である。モリブデン-99とアスタチン-211ははジルコニウムおよびビスマスにアルファ粒子を照射することで製造が可能である。また白金-195mは金の制動放射線照射によって製造が可能であることが報告されている。 モリブデン-99の分離はターゲットであるジルコニウム(もしくはその化合物)を水溶液とする手法としてフッ化水素酸を用いた。その後で陰イオン交換カラムクロマトグラフィーでの分離を試みた。しかしながら,副生成物であるニオブとの分離については次年度への課題となった。しかしながら,本手法にて得られたモリブデンとニオブの混合溶液をアルミナカラムへ充填すると,モリブデン-99のみがアルミナへ吸着したため,ジェネレーター作成時にはニオブの存在は無視して良いことも同時にわかった。 また,白金-195m分離法開発については,コールド実験にて金の溶解および水酸化金生成による沈殿分離法の検討を行った。水酸化金との共沈でどの程度の白金-195mが失われるかは不明だが,沈殿分離法とカラムクロマトグラフィーを組み合わせてキャリアフリー白金-195mを得るための準備が整った。次年度に電子加速器でのRI製造と化学分離実験を行う。 アスタチンの化学分離法については特筆した結果を得られていないが,次年度にヨウ素-131も用いて化学分離法の検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である2019年度は,主にコールド実験によるモリブデン-99と白金-195mの化学分離法についての検討を行った。白金-195m製造に用いる金は王水に溶解することが知られているが,その後にpH調整による金化合物の沈殿分離法を検討した。また,モリブデン-99製造のための金属ジルコニウムおよび酸化ジルコニウムはフッ化水素酸を用いた手法をそれぞれ検討した。また,モリブデン-99は加速器を用いた製造と化学分離法の開発に着手することができた。 モリブデン-99の化学分離法開発は大きく進展した。金属ジルコニウムをターゲットとした場合は,溶液化はフッ化水素酸のみで可能であった。金属ジルコニウムを溶解した後に陰イオン交換クロマトグラフィーによって,キャリアフリーモリブデン-99が得られた。酸化ジルコニウムをターゲットとした場合には,フッ化水素酸,塩酸を混合し,さらに加熱することによって溶液化ができた。また,金属ジルコニウムからの分離法と同じ手法を用いたが,ニオブとの分離法の確立ができていない。しかしながらモリブデン-99/テクネチウム-99mジェネレーターを作成する場合は,ニオブが不純物として混ざっていてもアルミナカラムに吸着されるのはモリブデン-99のみであることもわかった。 白金-195m製造法の検討はコールド実験のみ実施。金を王水に溶解させ,pHを調整することによって水酸化金の沈殿を生成することで大部分の金を除去できることを確認した。ただし現段階ではどの程度の白金-195mが共沈するかは不明であるので,照射サンプルでの実験は必須であり,次年度における実施を予定している。 アスタチン-211化学分離はコールド実験にて溶液化等の検討を行ったが,特筆すべき結果は得られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度はモリブデン-99分離法の完成に向けた開発,白金-195mの製造及び化学分離を中心に行うこととする。また,アスタチン-211分離に関しては,液量を大きく減少させるようなシステムを開発することを主とする。 モリブデン-99製造法の開発は,2019年度中に一通りの流れが完成した。しかしながら,酸化ジルコニウムをターゲットとした場合にモリブデン-99をキャリアフリーとして得られていない。このため,完全な分離方法を引き続き開発する。特に濃縮ジルコニウム-96ターゲットを用いた場合に,ジルコニウムを固体として再生する手法を用いた場合は酸化物として得られると考えられる。そのため,酸化ジルコニウムから化学分離法の完成は本研究の重要な達成目標である。 白金-195mの分離法開発をRIを用いて進めていく。すでにコールド実験にて開発した手法では,水酸化金との共沈で白金-195mが失われる可能性があるため,この量がどの程度かを決定する。共沈する量が多すぎる場合は,化学分離法の再構築が必要となるので,2020年度の早い段階で実験を行う。上澄み液のカラムクロマトグラフィーは共沈によるロスがよほど多くない限りは可能であるので,こちらは進めていく方針である。 アスタチン-211分離法は,ヨウ素-131など同族元素のRIを用いた予備実験を行う。液量を非常に少なくできるならば,溶液調整が容易になるので,カラム体積を減少させるような仕組みを考案する。例えば,細長いチューブに充填剤を詰めるような手法は,溶液体積を減らすのに有効な手法である可能性があり,実験を進めていく。
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