本研究は、がん細胞を標的とした抗原特異的T細胞療法において問題となる「抗原発現の不均一性」を解消するために必要となる、多様な膵臓がん細胞に対して持続感染可能な腫瘍溶解性ウイルスベクターの開発を最終目的としている。 令和元年度は、新規導入した膵臓がん細胞株9株を対象とし、麻疹ウイルスの感染に必要なNectin-4の発現についてフローサイトメトリーによる解析を実施した。その結果、Nectin-4陽性株は4株(Capan-2、KLM-1、PK-1、PK-8)、陰性株は5株(AsPC-1、BxPC-3、MIA PaCa2、PANC-1、PK-59)であることが確認できた。さらに、麻疹ウイルス感染実験の際にNectin-4発現量の差が解析に影響することを防ぐため、レトロウイルスベクターにてNectin-4を強制発現させた細胞株を樹立した。また、T細胞への感染能を欠失させた麻疹ウイルス増幅用の細胞として、Nectin-4を強制発現させたVero細胞の樹立にも成功している。 令和2年度は、理研およびATCCより導入した膵臓がん細胞株9株と当該細胞のNectin-4強制発現株の凍結ストックを十分量用意し、感染実験の実施に向けた準備を進めていた。しかし、新型コロナウイルスの大流行による勤務制限と移動制限が行われた結果、感染実験の実施には至らなかった。 令和3年度は、昨年度に引き続き新型コロナウイルスの大流行による移動制限が行われた。コロナ禍において、より安全性の高い麻疹ウイルスを用いた実験を実施するため、麻疹ウイルスの複製に必要なFタンパク質を発現する膵臓がん細胞株の樹立を試みた。しかし、レトロウイルスベクターを用いてFタンパク質を導入したものの、Fタンパク質を安定的に発現する細胞は取得できなかった。 別大学にてP2実験環境の整備が完了しており、継続して研究を進める予定である。
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