研究課題/領域番号 |
19K16863
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中田 潤 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (90528952)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫 / WT1ペプチドワクチン / 抑制性マクロファージ / ヘルパーペプチド |
研究実績の概要 |
WT1ワクチン療法皮下腫瘍モデルにおいて腫瘍内に浸潤する免疫細胞よりWT1-35ヘルパーペプチド特異的CD4T細胞(以下、WT1-CD4)、WT1-126CTLペプチド特異的CD8T細胞(以下、WT-CD8)を取り出し、single cellから増殖させそのTCRを同定した。WT1-CD8は3クローン、WT1-CD4は2クローンに関してTCRを組みこむウイルスベクターを完成させた。
また、ワクチン接種部位皮膚の免疫細胞の経時的な変化を解析し、腫瘍部位と同じく長期間にわたりWT1-CD4, WT1-CD8が入り込んでいることを確認した。ワクチン接種部位皮膚において免疫抑制されるメカニズムを探索し、CD11b陽性細胞の一部の表面形質を示す細胞集団(以下、Suppressor-Macrophage)がT細胞の分裂・増殖を強く抑制することを見出した。このSuppressor-Macrophageは既知のMDSCやM2マクロファージとは違う形質を示しており、このSuppressor-Macrophageをブロックすることで腫瘍免疫を増強することが期待される。
また、ヘルパーペプチドのヘルプ機能において抗原特異性の意義についても解析を始めている。WT1ヘルパーペプチドに比し、外来性抗原であるOVAに対するヘルパーペプチドの方が末梢血中へのWT1-CTLを強く誘導する一方、腫瘍内環境においてはWT1ヘルパーペプチドの方がWT1-CTLの増殖を高めることが明らかとなった。本現象は従来のヘルパーペプチドによるサイトカイン放出による遊走の亢進だけでは説明ができず、腫瘍内の免疫環境に関して両群における違いの解明により腫瘍免疫の増強法が見つかる可能性が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
WT1-CD8, WT-CD4クローンのTCR配列の同定~ウイルスベクター作成までは順調に進展しているが、その後の機能評価目的のRetrogenic mouse作成に関して系が安定せずやや進捗が滞っている。一方でWT1ワクチン療法の増強法の探索という観点では、当初想定していなかったワクチン接種部位での新たな抑制性免疫細胞が同定され、また従来のヘルプ機能だけでは説明がつかない抗原特異的CD4T細胞の効果を認めるなど2つの標的が見つかった。本年にそれらの細胞や機能を解明することで本研究の目的であるWT1ワクチン療法の増強法を見出すことが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
WT1-CD8, WT1-CD4クローンの樹立に関し、Retrogenic mouseを用いて既に得られたWT1-CD8クローン3種類、WT1-CD4クローン2種類の比較を行い、最も機能が高いTCRに関してTransgenic mouseの作成を行う予定である。
また、WT1ワクチン接種部位皮膚にて同定された抑制性マクロファージに関して、その遺伝子解析によりその細胞の特質を解明し、更にはその細胞に特異的な細胞表面抗原を見つけることにより抗体を用いた機能ブロックにより抗腫瘍免疫が増強できるかの検証を行う予定である。
最後に腫瘍部位におけるCD4のヘルプ機能において抗原特異性が必要なメカニズムの解明のため、WT1ヘルパーペプチドおよびOVAヘルパーペプチド間において末梢血中、腫瘍内の免疫環境の比較を行っていく予定である。
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