研究実績の概要 |
本研究では豊富な臨床検体と細胞株、およびマウスを用いて、OVOLのシグナル伝達経路の解明を行う。当該年度では、主に臨床検体と細胞株を用いた研究を行 い、下記の結果を得た。 OVOL1とOVOL2は上皮間葉転換の重要なモデュレーターであることがいくつかの癌腫で示唆されていたが、皮膚がん、特に皮膚有棘細胞がんに関してはほぼ未解 明であった。皮膚有棘細胞がんおよびその前がん病変である日光角化症の病理組織検体をそれぞれ30検体ずつ免疫組織学的に解析したところ、OVOL1,OVOL2とも に日光角化症では過剰発現し、有棘細胞がんでは発現が低下していた。さらに上皮間葉転換の重要な調節因子であるZEBは日光角化症で発現が低下、有棘細胞が んで増加し、OVOL2と負の相関関係にあった。細胞株を使った実験では、OVOL1、OVOL2のそれぞれのノックダウンでZEB1はmRNAレベル、蛋白レベルで発現増加 し、さらにOVOL2のノックダウンでは培養細胞の浸潤能が増加していた。これらの結果から、皮膚有棘細胞がんの前がん病変である日光角化症から有棘細胞がん に進展するにあたり、OVOL2が上皮間葉転換の重要な関連因子であるZEB1を調節することで癌への進展を抑制している可能性を示した。 これらの研究結果をまとめ、下記の報告を行った。 Murata M, Ito T et al.OVOL2-Mediated ZEB1 Downregulation May Prevent Promotion of Actinic Keratosis to Cutaneous Squamous Cell Carcinoma. J Clin Med 2020, 9, 618; doi:10.3390/jcm9030618
論文報告後も引き続きOVOLと上皮間葉転換の関連をさらに追求すべく実験を行っている。
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