研究実績の概要 |
近年、様々な癌種で腫瘍内不均一性が報告されており、その一部は分子標的薬による治療抵抗性と関連すると報告されている。しかしながら複数の転移病巣を伴う進行卵巣明細胞癌において、原発病巣のみならず転移病巣を対象とした解析は行われておらず、卵巣明細胞癌における腫瘍内不均一性は明らかではない。 本研究では初回手術時に3ヶ所以上の転移性病巣を切除された10例の進行卵巣癌を解析対象とした。病巣のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)を用いて腫瘍部分からゲノムDNAを抽出し、84種類の卵巣明細胞癌治療関連遺伝子の全エクソン領域を標的としたカスタムキャプチャーパネルを用いてターゲットリシークエンスを施行した。10例中3例で十分なリード数を得ることができず、最終的に7症例、43病巣を解析対象とした。 18種類の遺伝子に38種類の病的変異が検出された。最も頻度が高かったのはARID1A遺伝子で、7例中5例(71,4%)で検出され、そのうち2例では病巣による不均一性が認められた。しかしながら不均一性のさらなる検証を目的に施行した免疫染色ではタンパクレベルの不均一性は認められず、治療標的としてのARID1Aの不均一を証明するには至らなかった。PIK3CA遺伝子も7例中5例に検出され、そのうち3例で不均一性を認めた。そのうち2症例では同様に不均一性を証明するに至らなかった。しかしKRAS変異をベースに有する1症例では、大網播種巣にのみPIK3CA変異が検出されており、サンガーシークエンスでもValidationされたことから、真の不均一性である可能性が考えられた。KRAS変異を有するがん細胞に、2次的なPIK3CA変異が生じた時に、癌細胞の生物学的特性や薬剤感受性にどのような影響を及ぼすか、今後検討していく予定である。またここまでの結果を報告するために現在論文を作成中である。
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