研究実績の概要 |
本研究は、非淡明細胞型腎細胞癌を対象にドライバー遺伝子を含む融合遺伝子を探索することを目的としている。2006年から2017年に切除された腎腫瘍638例から候補となりうる22例を選定し、Archer Fusion PLEXを用いて12種類の遺伝子の既知の融合遺伝子とパートナーが未知の融合遺伝子の検索を行ったところ、既知の融合遺伝子 (TFE3-PRCC, TFE3-SFPQ; 各1例) および未知の ALK 融合遺伝子 (1例) が検出された。本年度は3例の臨床病理学的特徴を明らかにし、2022年度病理学会総会で発表を行った。診断時のTNM分類はpT3aN2M0, pT1aN0M0, pT3aN2M0で、pT3aの2例は腫瘍死の経過を辿っていた。TFE3転座型腎細胞癌2例の組織学的特徴は既知の報告に類似していた。ALK融合遺伝子転座を伴う腎細胞癌はこれまでに40例程度の報告があるが、比較的予後良好なものが多く腫瘍死の経過を辿っているものは極めて稀であった。今回検出されたALKの転座パートナーが悪性化に寄与している可能性について、更なる検討を行う予定である。 なお、本研究で発見された融合遺伝子を伴う腎癌は3例のみであったが、今回の研究で構築した腎癌の臨床病理学的データベースを用いて、腎癌の予後やバイオマーカーに関する論文報告を行った。淡明細胞型腎細胞癌に対しては、現在の腎癌の診療において問題となっている血管新生阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬をどのように使い分けるかという課題にも取り組んだ。細胞質の色調や腫瘍血管網に基づく組織構築、腫瘍関連免疫細胞の状態をヘマトキシリン・エオジン染色と免疫染色にて評価し、血管新生や腫瘍免疫などの治療奏功性と関連する遺伝子異常に基づく組織形態を解析した。その結果、予後予測や治療戦略に繋がる病理学的新規リスク分類を確立することに繋がった。
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