研究課題
本研究で検出された融合遺伝子を伴う腎癌は2例のTFE3融合遺伝子と1例のALK融合遺伝子のみであり、他の癌腫で治療薬が確立されているドライバー融合遺伝子の異常を伴う腎癌は発見されなかった。そこで、2021年度は今回の研究で構築した腎癌の臨床病理学的データベースを用いて、淡明細胞型腎細胞癌の予後やバイオマーカーに関する論文報告を行った。2022年度はThe Cancer Genome Atlas (TCGA)で公開されているデジタルスライドを用いて、我々の明らかにした予後や治療選択につながる病理学的指標を人工知能(AI)に機械学習させ、AIによる淡明型または好酸性型の判定は病理学的予後因子や治療選択に関わる遺伝子発現と相関することを論文報告した。今回、非淡明細胞型腎細胞癌において、ALK以外に新規に治療ターゲットとなりうる融合遺伝子は認めなかったため、既知の治療薬である免疫チェックポイント阻害薬の奏効性につながる病理学的所見について解析を行った。2021年度に淡明細胞型腎細胞癌におけるヘマトキシリン・エオジン(HE)染色で施行した免疫フェノタイプはCD8陽性T細胞やPD-L1などの蛋白発現と免疫系の遺伝子発現と相関することを明らかにしたが、非淡明細胞型腎細胞癌においても相関があるかどうかは不明である。乳頭状腎細胞癌や嫌色素性腎細胞癌などの代表的な非淡明細胞型腎細胞癌においても、HE染色標本による免疫フェノタイプが蛋白発現や遺伝子異常と相関するかどうか、当院の症例とTCGAの症例を用いて検討中である。
3: やや遅れている
講座のスタッフの退職に伴い、診療業務にエフォートを割く必要があったため。
本研究で報告された未知のALK融合遺伝子の症例につき、論文作成を行っていく。また、作成した腎癌の病理学的データベースから淡明細胞型腎細胞癌や非淡明細胞型腎細胞癌における治療薬の奏効性に関わる病理学的バイオマーカーに関する検討について、論文作成を行っていく。
研究の進捗状況の遅れに伴い、直接経費を使用できなかったため、補助事業期間を延長申請した。今後は物品費およびその他予算を、バイオマーカーの可視化に必要な免疫染色抗体やFISHのプローブの購入、論文作成および出版費用などに充てたいと考えている。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
Human Pathology
巻: 131 ページ: 68-78
10.1016/j.humpath.2022.11.004.