本申請課題では、グルタミントランスポーターであるASCT2を標的とした、KRAS遺伝子に変異のある癌に対する治療効果について、申請者らが独自に取得した新規抗ASCT2モノクローナル抗体(mAb)を用い検討する。昨年度は、KRAS遺伝子に変異のあるヒト大腸癌細胞株(SW1116、HCT116)由来の腫瘍の増殖が、抗ASCT2 mAb処置により有意に抑制されること、一方でKRAS遺伝子に変異の無い細胞株(HT29)由来の腫瘍では、対照群と同程度の増殖を示すことを見出した。本年度は、抗ASCT2 mAbによる抗腫瘍効果の機序について解析した。抗ASCT2 mAb処置により、SW1116およびHCT116では細胞表面のASCT2タンパク質が減少していたことより、本抗体はインターナリゼーション活性を有していることがわかった。また、細胞内へのグルタミンの取り込みの抑制、ERKおよびAKTのリン酸化レベルの減少も認められた。しかしながら、HT29では、これらの現象は認められなかった。KRAS遺伝子変異の有無による抗ASCT2 mAb処置の差異についての原因は不明であるものの、ASCT2の阻害がKRAS遺伝子が変異した大腸癌の治療戦略として有用である可能性が示された。
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