研究課題/領域番号 |
19K16881
|
研究機関 | 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構 |
研究代表者 |
但馬 正樹 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構, その他部局等, 研究員(上席・主任研究員クラス) (50815032)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 免疫チェックポイント阻害 / 免疫関連副作用 / 1型糖尿病 / IL-10 / Dectin-1 |
研究実績の概要 |
当該年度において、申請者は免疫チェックポイント阻害治療による重篤な副作用である1型糖尿病(Type1 Diabetes; T1D)のマウスモデルを用いて、Dectin-1シグナルで誘導されるIL-10 高産生性T 細胞(Tr2細胞)がその発症にどうように寄与しうるかを検討した。まず、癌患者で起こる免疫関連副作用を再現することを目的に、T1Dを自然発症することが広く知られるNODマウスに抗PD-L1 抗体を投与すると、投与後3日から2週間かけて血中グルコースの上昇を認めることができた。この際、抗PD-L1 抗体と同時にDectin-1 リガンドであるZymosan Depleted (ZD)を投与すると、その発症を顕著に抑えることができた。このことはDectin-1が、PD-1シグナルを阻害することによって引き起こる自己反応性の免疫細胞の活性化を何らかの方法で抑制できることを示唆する。 この実験系を、さらに癌患者が発症する免疫関連副作用の病態に近づけることを目的に、NOD マウスへの癌細胞の接腫を検討した。NODマウスはI-Ag7という特殊なMHCハプロタイプを有していることから、まずNODマウスに生着する癌細胞を化学発癌によって作成し、それをライン化することを試みた。非常に高い発癌性を有する3-メチルコラントレンをNODマウスに皮内投与し、数ヶ月経過観察すると、投与部位に腫瘤を認めた。この腫瘤から細胞を回収し、in vitroで培養することによりおおよそ10種類の癌細胞を得ることができた。得られた細胞は今後NODマウスに摂腫し、細胞を生着して腫瘍を形成するもの/形成しないもの、さらにはPD-1阻害に感受性が高いもの/低いものとを区別しながら、Dectin-1シグナルが抗腫瘍効果に与える影響およびT1Dの発症などを網羅的に解析していく準備を整えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトにおいて、①IL-10による潜在的な抗腫瘍効果の解析、②Dectin-1シグナルをターゲットとしたTr2細胞誘導の検討、③Tr2細胞を用いた、自己免疫疾患の治療および抗腫瘍効果の評価、を柱に解析を進めることを目標においた。①については、IL-10による抗腫瘍効果の解析を進める上で重要な、NODマウスに生着する種々の癌細胞ラインの取得を順調に進めることができた。現在までに10種類程度のライン化に成功しており、現在はこれらをNOD マウスに摂腫することにより、癌細胞としての特徴を明らかにしていく段階に入っており、概ね予定通りの進捗である。③については、NOD マウスに抗PD-L1抗体を投与することによって発症するT1D を安定的に誘導することができており、さらにこの発症をZDによって強く抑制できるところまで明らかにすることができた。今後、この発症抑制がIL-10 によって誘導されるのかどうか、されるのであればTr2 細胞によるものなのかなどを検討していく必要があるが、現在までのところ予定していた通りの進捗であると考える。②の解析について、in vitroの系を用いてTr2 細胞誘導の詳細なメカニズム解析を進めており、当初の予定より進捗が遅めではあるが、これまでのRNA microarray の解析からTr2 細胞のメタボローム解析にアプローチをシフトしており、今後より多くのエフォートを割いていく予定である。これらのことを総合して、プロジェクト全体としては概ね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の進捗を踏まえ、今年度はNOD マウスに摂腫できる癌細胞の特徴づけをさらに進めていく。まず、各癌細胞ラインをNOD マウスに皮内投与し、どのような速さで腫瘤を形成していくか、さらにはこれらの癌細胞が抗PD-L1抗体を投与することにより退縮されるかどうかを検討する。この際、抗腫瘍効果と同時にT1D を発症するかについても評価の対象にすることで、抗PD-L1抗体への感受性の有無、およびT1D 発症の有無により4つのグループに分ける。このグループ化したものを体系的に評価していき、それらに対してDectin-1リガンド投与による影響を明らかにすることで、免疫チェックポイント阻害・免疫関連副作用の観点からTr2細胞の有用性を見出していく。また、Tr2 細胞の誘導メカニズムの解析については、現在、LC-MSを用いたメタボローム解析を進めており、他の細胞群との代謝産物の変化からどのように誘導されるか検討を進めている。この結果からpathway screeningなどを駆使して発展的に解析を進め、Tr2 細胞の誘導メカニズムの解析を推し進めていく予定である。最終的にはこれらの検証から得られた知見をもとにDectin-1シグナルによって誘導されるTr2細胞が産生するIL-10の生理的意義を見極め、さまざまな免疫疾患の治療に応用できるターゲットの創出を目指していく。
|