研究課題/領域番号 |
19K16881
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
但馬 正樹 京都大学, 医学研究科, 助教 (50815032)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | IL-10 / Dectin-1 / グルタミン代謝 / 免疫チェックポイント阻害 / 免疫関連副作用 |
研究実績の概要 |
当該年度において、申請者はIL-10高産生性T細胞(Tr2細胞)の誘導メカニズムにおいて、グルタミン代謝経路がPhosholipase Dを介してmTORを活性化していることを明らかにした。 これまでにTr2細胞の誘導にはグルタミン代謝の中間産物であるa-ケトグルタル酸がmTORの活性化に重要であることを明らかにしてきたが、これらをつなげるシグナリング経路は未だ不明であり、これを同定することを目的に検討を行った。まず、グルタミンの細胞内取り込みに関わるアミノ酸トランスポーターのTr2細胞でのmRNAレベルをTh2細胞をコントロールとして比較をすると、それらの転写レベルはほぼ同等であることが分かった。このことからTr2細胞で見られる高いmTOR活性化メカニズムはグルタミンの細胞内取り込み差によるものではなく、細胞内a-ケトグルタル酸の代謝レベルに起因するものと考えられた。 次にa-ケトグルタル酸の下流にで活性化することが報告されていたPhospholipase Dの阻害剤を数種類使ってTr2細胞からのIL-10産生レベルを検討した。すると、これらの阻害剤存在下においてIL-10産生が顕著に抑制されることが明らかとなった。このことから、Tr2細胞におけるIL-10産生は主にPhospholipase Dを介したmTOR活性化が重要であることが示された。 このように誘導されたTr2細胞されたが実際にPD-1阻害によって起こる免疫関連副作用を抑制できるかどうかを検討するためにNODマウスに抗PD-1抗体を投与することによって起こる1型糖尿病モデルを用いてその病態を改善できるかを検討したところ、抗腫瘍効果に影響を与えずに1型糖尿病を抑えることができることが明らかになった。このことから免疫関連副作用に対して、Dectin-1を介したT細胞の免疫抑制作用を誘導できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IL-10高産生Tr2細胞が誘導される分子メカニズムについてはその全貌が明らかにしつつあり、①IL-4/STAT6/GATA3 pathway に加えて、②グルタミン-a-ケトグルタル酸-mTOR pathwayの重要性を示すに至っている。さらにこのグルタミン代謝を介したmTOR活性化を制御する因子としてPhospholipase Dの存在を明らかにしたことで、Tr2細胞を誘導する条件の最適化を進めることができた。現在は誘導されたTr2細胞が実際に抗腫瘍効果を維持しつつ免疫関連副作用に対する抑制能を有するかどうか、1型糖尿病を自然発症するNODマウスに腫瘍を接腫し、PD-1阻害抗体を投与する病態モデルを用いてを検討する段階に進んでいる。このモデルを使うことによって癌治療効果と免疫関連副作用の症状を同一マウスで解析をすることが可能であり、よりヒト癌患者の病態に近い状態での解析が可能となる。当該年度において、このNODマウスに接腫する癌細胞の選別を行っており、特にPD-1阻害抗体に感受性の高いものを用いて予備検討を行っている。癌を接腫したNODマウスにPD-1抗体およびIL-10高産生性Tr2細胞を誘導するDectin-1リガンドを投与すると、PD-1阻害によって誘導される高い抗腫瘍効果を維持しながら、免疫関連副作用として発症する1型糖尿病は抑制できることを明らかにした。本プロジェクトの目的である抗腫瘍効果を最大化するための免疫関連副作用の制御を実現するために、さらにさまざまな癌種(PD-1阻害による抗腫瘍効果の低いもの等)でTr2細胞の効果を評価するシステム構築のための基盤形成を終えることができた。これにより抗腫瘍応答と自己免疫応答との相互作用をさらに発展的に解析することが可能になり、本プロジェクトはおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本プロジェクトのゴールとして設定してきた、PD-1阻害効果を最大限に高めるためのTr2細胞の活用方法の確立については、担癌マウスを用いた評価方法を整えることができ、今後はこのシステムを用いてさらに多くの知見を収集し、発表していくことを見据えた取り組みを進めていく予定である。 PD-1阻害による抗腫瘍効果とそれに伴って発症する免疫関連副作用を解析するためのNODマウスを用いた解析方法の確立により、癌種の違いによってどのようにTr2細胞が免疫関連副作用発症を制御しうるかを評価できるようになった。十数種類得られている癌細胞の中にはPD-1阻害による抗腫瘍効果が顕著なものや、まったく効果が得られないものなど、非常にバラエティーに富む癌細胞パネルを取得しており、さらなるバリエーションを持たせるためにその数を増やしていく予定である。このようにさまざまな抗腫瘍効果が得られている中で、現在は免疫関連副作用として顕在化する1型糖尿病の発症パターンを網羅的に解析をしており、その症状をパターン化(発症のタイミング、重症度、Tr2細胞による治療効果など)することによってより多くのアプローチで解析を発展的に進めていくことが可能となる。具体的には癌組織および膵臓に浸潤するT細胞のTCRレパトア解析で得られるclonality情報から、Tr2細胞による1型糖尿病抑制メカニズムを明らかにする一助とする。また、血中メタボローム解析によってどのような低分子代謝物が変化をするかを捉えることによりさらなるPD-1阻害効果の最大化を可能とするターゲットスクリーニングおよび免疫関連副作用発症のバイオマーカー探索にも活用できると考えられる。これらから得られる情報を元に、プロジェクト最終年度において臨床応用を見据えた取り組みをさらに推し進める予定である。
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