研究実績の概要 |
過去の経験に応じて記憶を形成することは重要であり、その神経メカニズムはよく研究されてきた(Waddell, Curr. Biol. 2016) 。一方で、記憶と現実にズレが見つかった場合は、過去の記憶を修正し、現実に即して行動することもまた重要である。しかし、記憶の修正を司る神経回路に関しては不明な点が多い。 ほ乳類では、報酬と連合された刺激に脳内ドーパミンニューロンが応答し、記憶の修正にも関与することが知られている (Schultz, Annu. Rev. Psychol. 2006) 。ほ乳類と昆虫の連合学習におけるドーパミン系の重要性を鑑みて、申請者は、昆虫でもドーパミン系が記憶の修正に寄与する、との仮説を立てて検証を試みた。 フタホシコオロギは連合学習についての知見が豊富であり、また薬理学的な実験が容易で実験対象として有用である。コオロギでは記憶の修正を検証する手段として消去学習とその類型として過剰予期効果を用いる。 本研究の成果として、コオロギの消去および過剰予期効果について、再現可能であるとの結果を得た。過剰予期効果の影響は時間経過によって部分的に失われることを確認し、論文として報告した。また、消去の影響は時間経過および文脈依存的に変動することを示唆するデータを得た。消去および過剰予期効果におけるドーパミン系の機能については、現時点で得られたデータから明瞭な結論は得られていない。今後の更なる研究が必要である。
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