研究課題/領域番号 |
19K16893
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
矢追 健 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 特任助教 (80647206)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会的促進・抑制 / 自閉スペクトラム症 / 脳磁計(MEG) |
研究実績の概要 |
本研究は,特に就学前の定型発達(TD)児および自閉スペクトラム症(ASD)児を対象として,課題遂行場面において他者の存在がその成績に影響を及ぼす社会的促進ないし抑制の効果を明らかにし,さらにその際の神経活動について幼児専用に開発された脳磁計(MEG)を用いて検討することを目的とする。このため本研究では基本的な社会的認知による影響である社会的促進(抑制)がどのような状況において生じるのか,またASD児ではTD児と効果が異なるのかを検討する。2021年度は,前年度以前に実施した社会的促進(抑制)についての実験を継続することに加え,新たに社会的促進(抑制)の現れ方が異なると考えられるような課題を幼児に行ってもらい,その際の神経活動をMEGによって計測する計画であった。しかし,昨年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の全国的な流行がなかなか収束を見せず,必然的に密室内での対面接触を伴う神経科学的実験は実施困難な時期が続いた。このため,2021年度は新たに実施する課題で用いる刺激について検証するための,大人を対象とした心理学的実験の結果を取りまとめた。これは自己および他者の認識にあたって重要な「名前」に着目し,意識に上らない形で閾下呈示された自分自身の名前が自己表象を自動的に活性化し,その後に呈示された情報がそれと結びつくことによってよりよく記憶されるかどうかを検討したものである。実験の結果,特定の条件下において,全体的な記憶成績がよい被験者ほど,閾下呈示された自分自身の名前の直後に呈示された情報をよりよく記憶していたことが示された(Yaoi et al., 2021)。この結果をもとに,幼児自身の名前や他の人物の名前と,それと結びつけられるような情報を併せて呈示する参照課題において,社会的促進(抑制)がどのように生じるのかを検討することを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ASD児はメンタライジングをはじめ,その社会的能力に障害があることはよく知られており,このことから社会的促進または抑制が生じにくい,あるいはその出現パターンが健常児とは異なる可能性が考えられる。このことを行動と神経活動の両側面から検討するために,2021年度はこれまでに得られたデータの詳細な分析に加え,新たに社会的促進(抑制)の現れ方が異なると考えられるような課題を幼児に行ってもらう実験を実施する計画であった。しかし,MEGを利用して神経活動を計測するための実験を行うためには,参加児,付き添いの親,および実験補助者らが密閉された狭小な磁気シールドルーム(MSR)に入り,さらに手や身体が触れ合う程度の距離にいる必要があるため,いわゆる三密の状態となることが避けられない。このため,対面を伴うような一般的な心理学実験と比較しても参加者や実験者の安全を確保するための感染症対策の難度が高く,新たな実験は少数の実施にとどまった。既存のデータの分析については当初の計画以上に進めることができているが,新たな実験データの取得にかかる時間を考慮すると,本研究は現時点では交付申請時に記載した実験計画に比べ若干の遅れがあると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は,2021年度に計画していた新たな実験を実施することに特に注力する。心理・神経科学的実験の実施にあたって必要となる感染症対策については,各学会から出されている指針や他研究機関における方策等を参考とし,実験参加者および実験者の検温,体調や行動履歴の管理,機材等の消毒の徹底はもとより,特に実験者はできるだけ速やかにワクチンの接種を受けることを目指す。磁気シールドルーム内のいわゆる三密状態については避けることが難しいため,一般的な心理学実験以上に感染症対策を万全にした上で,実験参加児およびその保護者の不安をできるだけ解消し,また後日のケアも行うことができるような体制の構築を目指す。しかし,今後の感染状況によっては,実験実施が年度後半以降にずれ込む可能性も考えられる。その場合,例えば神経活動の計測を伴わないような行動実験を実施したり,質問紙等による調査を行ったりすることによって,補完的なデータを得ることを目指すものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の全国的な流行がなかなか収束を見せず,2021年度は当初予定していたMEGによる実験をほとんど実施することができなかったため,これに伴ってかかる諸費用を次年度使用とせざるを得なくなった。また,特に国外の学会大会や研究会への参加を控えたため,参加費および旅費等にかかる費用を次年度使用とせざるを得なくなった。次年度使用に計上した予算はこの実験およびデータ分析に関係する機器類の購入や,学会等への参加費および旅費等に充てる予定である。
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