研究課題/領域番号 |
19K16895
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石野 誠也 京都大学, 医学研究科, 特定研究員 (40812227)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 報酬 / ドーパミン |
研究実績の概要 |
多くの場合一度では成功しない食餌の探索や求愛行動においては、期待通りにうまくいかない場合にも行動を繰り返すほうが、結局は、生存や子孫繁栄に有利な場合がある。しかし、このような心理実態を担う神経メカニズムは不明である。本研究は、このような心理を誘導する動物行動モデルにおいて、最新の神経活動計測法を用いてその神経メカニズムを解明する。 中脳のドーパミン(DA)細胞は、従来、実際に経験する報酬と期待する報酬の差で定義される「報酬予測誤差」に基づいて、未来の行動をそれぞれ強化あるいは弱化する学習に中心的役割を果たすとされてきた。本研究は、不確実な報酬に対する行動強化を担う中脳のドーパミン(DA)細胞の役割を解明する。我々は、不確実な報酬が提示されない「期待外れ」の際の陰性予測誤差に対して、活動が上昇する新規DA細胞を見出した。本年度は、この新規DA細胞が、期待外れに伴う何の属性に対して活動量を調節するのかを検討した。 頭部固定下のラットが、匂い刺激提示後に自ら行動して確率的報酬を得る課題を用い、光遺伝学法を応用した電気生理学法によりDA細胞の単一神経活動を計測した。階層クラスタリング解析を用いて、期待外れの際に活動が上昇する新規DA細胞と報酬に対して活動が上昇するDA細胞の2つに分類できた。現在、新規DA細胞の活動の上昇と行動との関係についての解析を進めている。 また、DA細胞の主な投射先である線条体のDA濃度が、どのような課題の変化に対して上昇するかをファイバーフォトメトリー法によって検討した。線条体の特定の領域では、上記課題を学習後に、古典的条件付け課題を組み込んだところ、期待外れの際のDA濃度がより顕著に上昇した。これらの結果は、中脳DA細胞の根本的役割を解明する重要な鍵となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通り、電気生理学法とファイバーフォトリー法により、期待外れの際に活動が上昇するDA細胞の活動の性質の解明が進んだため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、新規DA細胞の活動の性質の詳細と、不確実な報酬に行動を強化するようになる学習における新規DA細胞活動の生成過程を検討し、不確実な報酬に対する行動強化を担うDA細胞の役割を解明することである。本年度は、目的1に焦点を当て研究を進めたが、今後は平行して目的2にも取り組んでいく。 目的1については、古典的条件付け課題を組み込む実験だけでなく、条件刺激に応じて報酬量を変化させた場合や、不確実な報酬の条件刺激を変更した場合、条件刺激後に報酬を連続して提示しない場合(報酬提示の消去)などを検討していくことで、新規DA細胞が、獲得できるはずの報酬の量や条件刺激の新規性、確率の変化を反映して期待外れの際の活動量を調節するかを検討する。 目的2については、ファイバーフォトメトリーによって、DA濃度あるいはDA細胞活動を条件刺激と報酬確率間関係の学習初期から計測する。すでに線条体でのDA濃度の計測実験から新規DA細胞の主な投射先が特定できているため、線条体でのDA細胞軸索末端での活動を計測する。具体的には、遺伝子改変ラットとウイルスベクターを用いてDA細胞選択的に遺伝学的Ca2+センサーを発現し、Ca2+濃度変化を測定することでDA細胞活動を計測することで、学習に伴う新規DA細胞活動の生成過程をより詳細に検討していく。
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