精神疾患は生涯有病率が高く、社会的損失の大きな疾患の一つである。これまでに多くの精神疾患モデル動物を用いて分子レベルから個体レベルまで様々な階層で、多岐にわたる技術による研究が展開されてきた。しかしながら、モデルマウスを用いた個体レベルの行動解析は新奇環境において数分程度で行われる短期的な試験が主であり、社会的な集団生活における行動、すなわちモデルマウスが普段どのような行動を示すのかについてはほとんど検証されていない。本研究では、申請者が独自に開発した集団飼育下行動解析システムMAPSをさらに進化させ、より詳細な行動解析が可能なシステムへと改良を行った。具体的には、個体識別のためのIDの認識方法をパターン識別から拡張現実(AR)へと変更することでIDの認識速度と精度を向上させた。その結果、録画の時間解像度を1fpsから10-20fpsに向上させることに成功した。また、より詳細な行動分類を可能とするため、マウスの鼻先や尻尾の付け根などのボディーパーツをDeep Learningにより検出できるように改良を進めている。 改良した集団飼育下長期行動解析システムを用いて幼少期ストレスモデルのひとつである母子分離の経験が成長後の集団飼育環境における行動にどのような影響を与えるか検討した。その結果、慣れた環境において他のケージメイトの個体間距離が対象マウスに比べ短くなるなど、特徴的な社会性行動を示すことが明らかになった。この結果をまとめ、国際雑誌に投稿した。
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