研究課題
本研究では、家族等の社会的つながり(絆)を形成する脳内メカニズムを解明することを目的として、高度に発達した大脳皮質をもつ霊長類(マーモセット)を対象として、ペアボンドに関与する脳部位の特定を試みた。まず、本年度までに雌雄合流試験を23ペアで行い、夫婦への未知異性個体対面試験を5ペア17試行で実施し、性行動に関する基礎的データを得た。さらに、ペアボンド形成済み個体をペア個体から2日間隔離した後、再度合流させた際の脳サンプル2個体分を得た。1体分については免疫染色によるc-Fos発現解析を実施済みである。また、計画段階では挙げられていなかったがマーモセットの性行動を評価するうち、幼少期に人工哺育を受けた個体(下註)において通常の親哺育で育った個体とは異なる行動様式が認められ、ヒトの愛着障害(幼少期~成長後に家族や友人等との絆形成に困難が認められる)と類似する特徴が認められた。そこで、マーモセットの愛着行動を制御する脳内機構の解明が、ヒトの社会的つながり(絆)の脳内機構の解明のための足掛かりとなりうると判断し、人工哺育マーモセットの幼少期の愛着行動および成長後の社会行動評価のための行動実験を並行して実施した。本年度までに、人工哺育個体8個体及びその同腹子8個体を用いて幼少期の愛着行動評価のための行動実験を実施し、成長後の人工哺育個体2個体、同腹子2個体を用いて性行動の評価、人工哺育個体14個体、対照個体12個体を用いて非社会的報酬に対する行動評価を行った。(註)マーモセットは通常一度に2仔を出産するが、稀に3仔を出産することがある。この場合3仔目は生存できないが、研究資源の有効活用のために実験者がミルクを与える等して人工哺育を行い、かつその後家族群に受け入れられなかったために家族群に戻すことができなかった個体で実験を行った。
2: おおむね順調に進展している
ペアボンドに関する研究として、本年度までに予定していた予備的行動実験を完了し、さらに2個体分の脳サンプルを得た。さらに、追加で開始した愛着行動に関する研究として、人工哺育個体での行動実験を実施し、必要な行動実験の大半を完了した。多少の方針転換はあるものの、研究は概ね順調に進展している
本年度は既に撮影されたビデオ・音声の詳細解析を中心に実施する。解析に必要な実験は既に実施済みである。研究者の異動に伴い新規の行動実験実施が難しくなるが、出張及び理研の研究協力者との協力により実験を継続する。
本年度計画していた学会への参加を見送ったため。また、動物飼育管理等にかかる支出が想定を下回ったため。申請者の転職に伴い、次年度以降理研への出張が必要となる際の費用として見込んでいる。
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