研究課題/領域番号 |
19K16901
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
矢野 沙織 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (00779548)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 家族の絆 / マーモセット / 霊長類 / 愛着行動 |
研究実績の概要 |
本研究では、夫婦を含む家族の社会的つながり(絆)を形成する脳内メカニズムを解明することを目的として、高度に発達した大脳皮質をもつ霊長類(マーモセット)を対象として、絆に関与する脳部位の特定を試みている。本年度までに雌雄合流試験及び、夫婦への未知異性個体対面試験を実施し、解析を完了した。さらにペア形成済み個体をペア個体から2日間隔離した後に再度合流させた際の脳2個体分を得、c-Fos発現解析を実施済みである。 さらに、計画段階では挙げられていなかったが、性行動評価に係る行動解析を通して、健康管理上・他の実験場の理由から幼少期に人工保育を受けた個体における行動様式の変化が認められ、これがヒトの愛着障害(幼少期~成長後に家族や友人等との絆形成に困難が認められる)と類似していることを偶然に発見した。そこで、マーモセットの愛着行動を制御する脳内機構の解明が、ヒトの社会的つながり(絆)の脳内機構の解明のために重要であると判断し、今年度は特に本項目に注力し、研究を実施した。本年度は、これまでに実施した幼少期の愛着行動評価のための行動実験、成長後の性行動評価試験、非社会的報酬に対する行動評価の解析を完了した。 その結果、人工哺育個体は、幼少期に養育個体に対して忌避的行動をより頻繁に示すことが判明した。一方で、一般的に仔の鳴きは養育個体の養育行動を誘起し、成長に伴い仔の鳴きは減少するが、人工哺育個体においては高日齢になっても高頻度に鳴くという、矛盾した行動が認められた。また、性行動評価試験において、人工哺育個体は異性個体との性行動が有意に少なく、ペア間の関係不良を示唆する鳴き声や常同行動が有意に多く観察された。さらに、非社会的報酬が提示された際にネガティブな意味を持つ鳴き声を有意に多く示し、報酬に対する非典型的な反応が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画段階では挙げられていなかった方針に転換しつつはあるが、新方針の研究において重要な知見を得ることができたことから、研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度頭の申請者の異動に伴い、マーモセットを用いた新規の行動実験を自身で実施することは難しくなったが、出張(新型コロナウイルスの動向により可否を判断)、理研との定期的なWeb会議、研究協力者との協力により研究を継続する。主に実施済み実験データの解析およびマウスを用いた新実験系の立ち上げにより目的達成を試みる。 また、本年度の解析結果を元に論文を執筆し、次年度中の論文化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大の状況を鑑み、研究協力機関(理研)への出張及び学会発表のための出張を見送ったため。翌年度の理研・学会への出張が必要となる際の費用として見込んでいる。
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