研究課題
本研究は、家族単位で群れを形成する霊長類(マーモセット)を用い、家族の社会的つながり(絆)を形成する脳内基盤の解明を試みた。計画段階では夫婦の絆を対象としていたが、一部の個体がヒトの愛着障害(幼少期の愛着形成不全により他人との絆形成に困難が認められる)と類似する状態に陥ることを偶然に発見したことから、マーモセットの愛着形成の脳内機構の解明がヒトの絆形成の機序解明のために重要であると判断し、大幅に方針を転換して研究を実施した。まず、子の回収試験を通じて、養育個体と子の関係性を詳細に解析した。子はひとりにされると激しく鳴くが、養育個体に背負われるとすみやかに鳴き止み、生後3週までの期間は子が回避的な行動をとることは稀であった。しかし、一部のペアでは子が背負われていても頻繁に鳴く、養育個体を避けるといった非典型的な行動をとり、こうしたペアの養育個体は、子の要求に対する感受性が低い、寛容性が低いといった養育特性を示した。また、子は相対する養育個体の養育特性に応じて愛着行動を柔軟に変化させていた。さらに、部分人工哺育(極端な低感受性養育・ネグレクトの再現)を受けた子では、養育個体の養育特性に関わらず回避的に振る舞い、かつ精神的な自立が妨げられていた。さらに、幼少期に受けた養育は成長後の行動(養育行動・性行動・報酬への反応等)に長期的な影響も及ぼすことも示された。以上、マーモセットの養育・愛着行動はヒトと似ており、愛着やその脳内機構を研究する上で非常に有用なモデル動物であることが明らかになった。本研究では、脳部位探索の前段階として愛着の行動特性の解析に注力したため、脳部位の特定には至らなかったが、本研究で得られた知見を基に共同研究グループが愛着の制御に関わる脳部位の探索を進めている。
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communications biology
巻: 5(1) ページ: 1243
10.1038/s42003-022-04166-2