研究課題
これまでに当研究室は重力、痛み、電気刺激、光などの局所神経の活性化が、特定血管に免疫細胞の中枢への侵入口を形成することを世界に先駆けて報告してきた。我々はこの神経―免疫のインタラミクスを「ゲートウェイ反射」と名付けた。さらに最近、慢性的なストレスが脳内の特定血管に炎症を惹起することで新規神経回路を形成し、末梢臓器に多大な影響を与えることを報告してきた。本研究では①脳内特定血管に集積する病原性T細胞の表現型解析、②ストレス刺激特異的に増加する細胞集団の機能解析を行い、③ストレスによる臓器障害を予測するバイオマーカーを同定する。また、それらの細胞集団がストレス下においてどのような機能を持つかを検討することで、ストレスが引き金となりうる疾患の治療法および予防法の確立を目指す。実験の結果、ストレスに応じて末梢血および脾臓で、ある免疫細胞集団が増加することがわかった。さらに、この細胞をソーティングにて単離、RNAシークエンスを行い、高発現する候補遺伝子を抽出した。フローサイトメトリーによるバリデーションの結果、受容体Aを特異的に高発現することが明らかとなった。本検討で用いたストレスは慢性的な睡眠障害モデルであったが、この免疫細胞が、痛み、拘束および社会的敗北モデルなど様々なストレスモデルで共通して現れる細胞集団であるかを検討する。また本研究中にストレス依存的に発現を上昇させる遺伝子についても解析を行ってきた。こちらに関しても現在メカニズム解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
ストレス誘導性細胞集団の検出において、我々が着目している受容体Aが高発現することを再現することができた。さらに受容体Aに対する中和抗体を投与したところストレス依存性突然死が増加傾向にあった。また、本研究中にてストレス依存性に脳の特定血管に高発現する遺伝子の解析(遺伝子X)も行なっている。我々は遺伝子Xに対する抗体を作成し、それぞれを用いて蛍光免疫染色を行なったところ通常飼育のマウスと比較してストレス負荷を行なったマウスの脳特異血管で強くそのシグナルを得ることができた。また、当該遺伝子の機能を検討するためにストレス突然死モデルに遺伝子Xに対する抗体を抹消投与したところ突然死が有意に抑制されることが明らかとなった。さらにin vitroの実験にて当該抗体のIL-6アンプ抑制能を検討したところ、予想通り遺伝子Xに対する抗体はIL-6アンプの活性化を有意に抑制した。以上の結果から、論文化に向けて着実にデータを出しているため概ね順調であると考える。
今後は受容体Aに対する中和抗体の投与実験の再現を取り、どのようなメカニズムで突然死の抑制に寄与するかを検討していきたい。またストレス依存性に発現を増強させる遺伝子Xについては、ストレスがどのようにして遺伝子Xの発現を増強しているのか、そのメカニズムを神経回路を起点に調べていく。また、遺伝子X自体はIL-6アンプの活性化を増強することが考えられるため、免疫沈降法などの手法を用いて相互作用分子の同定、クローニングによる変異遺伝子の作成を行い遺伝子Xのどの領域が重要など分子メカニズムを検討していきたい。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件)
Front. Immunol
巻: 12 ページ: 780451
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