研究課題
アルツハイマー病の最大の危険因子は加齢 (=老化)とされているが、個体老化による何が脳内アミロイドβタンパク質 (Aβ)蓄積、ひいてはアルツハイマー病に寄与するのかという問いは明らかとなっていない。本研究では、脳内Aβ蓄積と個体老化を関連づけることが可能なマウス並体結合 (parabiosis)を用いて、脳内Aβ蓄積を促進ないし抑制する全身性因子を探索することを目的としている。前年度に続き、Aβ蓄積前APP-KI マウスと野生型またはGFP-Tgマウスにつき、老若種々の組み合わせで6ヶ月間の並体結合を行った。並体結合したAPP-KIマウスの脳Aβ蓄積を定量的に評価した結果、若齢マウスとの並体結合、そして老齢マウスとの並体結合でのAPP-KIマウスの脳Aβ沈着では加齢と相関する結果を得ている。この結果は若齢マウスと老齢マウスの循環因子に脳Aβ蓄積を制御する加齢依存的因子が存在することを示唆している。網羅的解析として、まずは、並体結合したAPP-KI マウス脳でRNA-seq解析を実施した。
3: やや遅れている
前年度に続き、APPノックイン (KI)マウスと若齢または老齢野生型マウス(またはGFP-Tgマウス)の側腹部を皮膚切開し、両マウスを縫合する並体結合 (parabiosis)にて脳内Aβを制御する全身性因子の存在の有無を確かめ、網羅的解析による目的因子の同定までを予定していたが、コロナの影響で海外輸入試薬の調達に遅れが生じた。しかし、本課題において根幹となる脳内Aβを制御する加齢依存的因子の存在は確認できている。12ヶ月齢から緩やかに脳内Aβが蓄積するAPPノックインマウスでは、基本的に6ヶ月間のparabiosisで実施していたが、これに加えて老若種々の組み合わせペアを合計16パターン実施し、施術後APP-KIマウスの脳Aβ沈着を免疫組織化学及びELISAで定量的に評価した。以上の結果、脳Aβ蓄積を強く制御する加齢依存的因子の存在が示唆され、この同定に着手に取りかかっている。そして、まずは、並体結合したAPP-KI マウス脳でRNA-seq解析を実施した。
脳Aβ蓄積を強く制御する加齢依存的因子存在が示唆されたことから、当該マウス血清タンパク質の分子サイズ等による分画化から候補因子を絞り込む。また、若齢および老齢野生型マウスの血清中全ペプチドを安定同位体標識しLC-MS/MS解析することで発現に差のあるタンパク質をリスト化し、RNA-seq解析と組み合わせて脳Aβ蓄積に対する効果を評価し候補因子を同定する。その候補因子は培養細胞ないしAPP-KIマウスを用いてAβ産生系及びAβ分解系、Aβ排出系に効果を示すか、またそのメカニズムを解析する。また、ヒト剖検脳組織あるいは患者血清を用いた解析を行い、候補因子の発現レベルと脳Aβ蓄積ないし認知機能との相関性を評価する。
コロナの影響で当初予定していた計画よりも試薬の調達に遅れが生じたため、次年度以降に繰越した解析外注費に充てる予定である。
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