代表者は、研究課題2であるα-エノラーゼのAβ毒性制御機構の解明に向け、プロテアーゼ活性に着目した検討を行った。α-エノラーゼがプロテアーゼ作用を介して、Aβタンパクを切断するとの仮説を立てた。そこで、複数のプロテアーゼ阻害剤を用いて、αエノラーゼによるAβ線維形成抑制効果が減弱するか否かを検討した。セリンプロテアーゼ阻害剤としてPefabloc、アスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤としてPepstatinA、システインプロテアーゼ阻害剤としてE-64、金属プロテアーゼとしてPhosphoramidonとEDTAを用いた。この中で、セリンプロアーゼ阻害剤であるPefabloc SCを用いた検討で、αエノラーゼの線維形成抑制効果が阻害されることが判明した。具体的には、チオフラビンT吸光度を用いた解析を行った。チオフラビンTはアミロイドのβシート構造を認識し、それに応じて吸光度が上昇し線維形成を間接的にモニタリンする測定手段である。これまでの研究で、αエノラーゼの添加により抑制されていた吸光度の上昇が、セリンプロテアーゼ阻害剤の添加により、一転して吸光度が上昇した。このことは透過型電子顕微鏡でも示され、α-エノラーゼによって抑制されていたAβ線維形成がPefabloc SCの添加により線維形成に至ることが形態学的にも示された。次に、α-エノラーゼによるAβ線維形成抑制能は、その酵素活性に依存するとの仮説を立てた。そこで、α-エノラーゼに対して90℃、5分間の熱処理を加えたところ、その酵素活性が完全に消失した。また、同様にチオフラビンTによる吸光度測定、および透過型電子顕微鏡を用いた検討を行い、90℃の熱処理で失活させたα-エノラーゼは、その線維形成抑制効果が失われ、Aβ線維が形成されることを示した。
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