プリオン病は正常型プリオンタンパク質(PrPC)が構造変換し、異常型プリオンタンパク質(PrPSc)となり、中枢神経系に蓄積することで発症する感染性の神経変性疾患である。本研究ではプリオンタンパク質に結合する化合物のドッキング計算を行い、試験管内プリオン増幅法(PMCA法)を用いて薬剤の異常プリオン増幅抑制効果を検証した。 58種類の化合物を治療薬候補化合物としてPMCA反応に添加し、抑制効果を検証したところ、遺伝性ヒトプリオン病馴化株であるFukuoka-1株の増幅を抑える3つの化合物を見出した。各化合物のPMCA抑制レベルとドッキング計算によって示された結合エネルギーには相関しない傾向にあった。そしてスクレイピー馴化株である22L株も同様に実験したところ、興味深いことに10種類の化合物はFukuoka-1株と異なる結果を示し、プリオン株によって薬剤の抗プリオン効果に違いがあることが明らかとなった。また、プリオン持続感染細胞における化合物のプリオン抑制効果を細胞中のプリオン活性にて評価を試みたところ、薬剤とプリオン株の組み合わせによってはプロテイナーゼK耐性PrPが消失した後もプリオン活性が維持されていることが明らかになった。これらの結果を受け、ヒトプリオン病の治療薬開発にはヒトプリオン株を用いたスクリーニング系が必須と考え、現在、孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)のプリオン増幅系の開発に着手している。
|