本研究はシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)のモデルショウジョウバエを用い、ミトコンドリア軸索輸送に関与する分子の同定と機能解析ならびに治療開発を目的とした。CMT2Aの原因遺伝子であるMFN2のショウジョウバエホモログMarfの神経特異的ノックダウン(KD)系統と細胞内輸送を担うモータータンパク質の一種であるキネシンスーパーファミリー(KIFs)のKD系統を網羅的に交配し、ヒトKif3Bに相当するKlp68D-KD系がCMT2Aモデルの複眼形成不全と運動機能を改善することを見出した。運動神経障害モデルとして筋萎縮性側索硬化症(ALS)原因遺伝子TDP43(ハエホモログはTBPH)、FUS(同caz)の神経特異的KD系とKlp68D-KD系を交配するとMarf同様に運動機能の改善が見られた。Klp68Dの強制発現系との交配ではこれらの改善効果は見られず、TBPHではむしろ生存期間の短縮が見られた。このことから運動神経変性においてKlp68D-KDが横断的に保護的な働きを示すことがわかった。ヒトTDP43遺伝子(Q331K変異)を神経特異的に発現するトランスジェニックショウジョウバエを作成してKlp68D-KD系と交配したところ、有意に生存期間が延長することを確認した。Klp68D強制発現系による有意な変化は見られなかった。治療標的分子の同定のためMarf、TBPH、cazとKlp68Dの二重KD個体から網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、全ての二重KD系統でHsp70の有意な発現低下が見られた。Hsp70阻害薬であるApoptozoleを神経特異的Marf-KD系統に経口摂取させたところ統計学的有意差には至らなかったが成虫の運動機能に改善傾向が見られた。
|