研究課題
パーキンソン病(PD)および多系統萎縮症(MSA)は進行性の難病であり、責任タンパク質であるalpha-synuclein (AS)の凝集体沈着が共通病理として認識されている。我々は、異常タンパク質を増幅する技術であるRT-QUIC (Real-time quaking-induced conversion)を利用することでPDおよびMSA患者の血清中を循環する構造異常を伴う微量ASを検出することに成功した(特開2018-159694)。今年度の実験ではPD患者200症例、健常コントロール100例、MSA患者30例、疾患コントロールとしてアルツハイマー病患者10例、進行性核上性麻痺患者9例まで患者数を増やしてRT-QUICを行い解析した。血液サンプルで感度特異度90%で、PDおよびMSAなどのシヌクレイノパチーと健常コントロール含めた非シヌクレイノパチーとが鑑別可能であることを示した。今年度はPDおよびMSAの血液RT-QUICから得られた産物において、AS構造の違いについて詳細な検討を行った。その結果PD患者由来のASと比較してMSA由来ASは短径が短いことが確認された。形態学的にはPDではtwisted paired filaments、MSAではtwisted filamentsおよびstraight filamentsを呈した。さらに、ASのC末端にGFPが融合した、AS凝集能がより高いA53T変異をもつASをHEK293細胞に安定発現させた細胞株を作成し、線維化したASをシードとして細胞に導入し、細胞内でGFP-ASの凝集体を形成させた。細胞内AS-GFP凝集体の密度を解析したところ、MSAではPDと比較して有意に凝集体の密度が高く、感度特異度高く両者を区別することが可能となった。血清ASシードがシヌクレイノパチーに特異的であり、その構造が異なることを示した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、RT-QuIC法を用いて多数例のコホートに関して血清ASシードを解析し、感度・特異度を割り出し診断バイオマーカーとしての有用性を検討した。パーキンソン病、健常人、多系統萎縮症、アルツハイマー病、進行性核上性麻痺、家族性パーキンソン病(PARK2)についての検討を完了し、診断に有用なバイオマーカーとして確立した。また血清由来RT-QuIC産物を電子顕微鏡および細胞実験を用いて解析しPDおよびMSAを区別することに成功した。
今後細胞実験においてシヌクレイノパチーおよびコントロール、非シヌクレイノパチーのN数を増やしてさらなる解析を行う。またin vivoの実験において血清由来RT-QuIC産物に伝播能があるか、またその伝播能はPDとMSAで異なるかを確認する。さらにASが取り込まれる細胞にPDとMSAで違いがあるかを免疫組織学的染色およびフローサイトメトリーを用いて解析する。伝播や取り込まれる細胞が異なった場合、その因子についてさらに解析する。
コロナの影響で納期未定や2021年度にしか入荷できない試薬や物品があり、残額が生じた。2021年度には入荷予定のため、早々に購入し実験を進めているため、研究上の遅れはほとんど無いと考えられる。
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