研究課題/領域番号 |
19K16932
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
杉村 弥恵 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20825997)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 炎症 / 腕傍核 / 扁桃体 / 中脳水道周囲灰白質 / シナプス伝達 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
全身性炎症が痛覚過敏を引き起こす脳内機構の解明を目的とし、以下の実験を行なった。 (1)扁桃体中心核(CeA)から下行性疼痛制御系への出力に及ぼす全身性炎症の影響の解析:Calcitonin gene-related peptide (CGRP) プロモーター下流 にCreリコンビナーゼを発現するCalca-Creマウスの外側腕傍核(LPB)に光活性化陽イオンチャネル(ChR2)発現アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを、また、中脳水道周囲灰白質(PAG)に逆行性トレーサーを脳内微量注入した。これによって、LPB由来CGRP陽性ニューロンを特異的に活性化し、逆行性に蛍光標識されたPAG投射CeAニューロンからシナプス応答を記録できる。Lipopolysaccharide (LPS)腹腔内投与群と、対照群として、生理食塩水を腹腔内投与した群のシナプス応答を比較したところ、LPS投与群で興奮性シナプス伝達の増強とCeA局所回路を介した抑制性シナプス伝達の減弱を認めた。また、PAG投射CeAニューロンは主にCeA内側に局在し、CeA外側部の非投射ニューロンと異なる電気生理学的・形態学的特性を有する事実を見出した。 (2)痛覚過敏に関わる細胞集団と機能的役割の同定:LPBのCGRP陽性ニューロンの細胞死誘導が全身性炎症による足底の機械刺激性痛覚閾値低下に及ぼす影響を検討した。また、CeA外側部に豊富に発現するoxytocin receptor (Oxtr) 依存的にCreリコンビナーゼを発現するマウスを用いて、CeAのOxtr陽性ニューロン特異的に人工受容体DREADDを導入し、足底の機械刺激性痛覚閾値や温度嗜好性の評価を行なった。結果の検討をさらに進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCeAから下行性疼痛制御系への出力に及ぼす全身性炎症の影響の解析に注力した。特定の脳領域2か所に正確に微量注入する難しさから、時間を要したが、現在、十分な例数が集まりつつある。その結果、全身性炎症によってLPB-CeAシナプス伝達やCeA局所回路の可塑的変化が生じ、CeAからPAGへの出力に影響を及ぼす可能性を見出した。一方、並行して、痛覚過敏に関わる細胞集団と機能的役割同定のため、特定の細胞集団の除去や人工受容体DREADDによる活性化を行ない、痛覚過敏や温度嗜好性の評価を進めた。興味深い成果が得られつつあり、今後さらに進める。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はこれまで得られた成果をまとめて論文投稿することを第一目標とするとともに、Oxtr-iCreマウスやCGRP-Creマウスを用いて、DREADD実験プロトコールの最適化とデータ収集を進める。現在進行中の温度嗜好性評価や機械刺激性痛覚閾値の評価に加え、全身性炎症がCeAを介して恒常性維持機構を制御する可能性を検討する目的で、自由行動下で活動量や心拍・体温の測定が可能となるテレメトリーシステムの導入を進めている。また、Oxtr-iCreマウスとAi14 レポーターマウスを交配して得られたマウスで全身性炎症を誘発し、CeAのOxtr陽性ニューロンからパッチクランプ記録を行ない、細胞の興奮性に及ぼすその影響を評価する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大により、参加予定だった北米神経科学会が中止になり、日本生理学会等、その他の参加予定だった国内学会がオンライン開催になったため、旅費として計上していた分を、次年度に繰り越すことになった。それ以外の研究費使用については概ね予定通りである。研究の進行に伴い、新たにAAVベクターや行動実験用機器の必要性が高まっているため、繰り越した分を購入費用に充てる予定である。
|