全身性炎症が痛覚過敏を引き起こす脳内機構の解明を目的とし、以下の実験を行なった。 1) 痛覚過敏に関わる細胞集団と機能的役割の同定:2種類の温度可変プレート上を自由にマウスが移動できる温度嗜好性測定装置を用いて、lipopolysaccharide (LPS) 腹腔内投与群と、対照群として、生理食塩水を腹腔内投与した群の温度嗜好性を評価した。LPS投与2時間後、4時間後において暖かいプレートの滞在時間が増加することが明らかになった。Calcitonin gene-related peptide (CGRP) プロモーター下流にCreリコンビナーゼを発現するCalca-Creマウスの外側腕傍核(LPB)に人工受容体DREADDを導入し、DREADDリガンドを投与して、LPBのCGRP陽性ニューロンを特異的に抑制したが、LPS投与による温度嗜好性の変化は影響を受けなかった。また、oxytocin receptor (Oxtr) 依存的にCreリコンビナーゼを発現するマウスのCeAにDREADDを導入し、CeAのOxtr陽性ニューロンを特異的に活性化すると、高温での嗜好性に変化が認められた。 2) 全身性炎症がCeAから下行性疼痛制御系への出力に及ぼす影響の解析:Calca-CreマウスのLPBに光活性化陽イオンチャネル(ChR2)発現アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを、また、中脳水道周囲灰白質(PAG)に逆行性トレーサーを脳内微量注入した。LPB由来CGRP陽性ニューロンを特異的に活性化し、逆行性に蛍光標識されたPAG投射CeAニューロンからシナプス応答を記録した。対照群と比較して、LPS投与群で興奮性シナプス伝達の増強とCeA局所回路を介した抑制性シナプス伝達の減弱を認めた。また、PAGの注入部位やCeAの記録部位によってシナプス応答が異なる可能性を見出した。
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