エクソソームとは、体液中に存在する直径40-200nmの脂質二重膜の小胞である。近年、疼痛時の血清から単離したエクソソーム中に存在する物質が、疼痛強度の指標となることが報告された。しかし、エクソソームと疼痛強度そのものとの関連性は解明されていなかった。我々はこれまでに、坐骨神経部分結紮(partial sciatic nerve ligation: PSNL)マウス血清由来のエクソソーム二重膜上のタンパク質が、低濃度ホルマリン誘発侵害刺激行動を増強することを明らかとした。 そこで本研究では、PSNLマウスの血清由来のエクソソームに着目し、疼痛強度を増強させるエクソソーム二重膜上の因子を同定すること、およびエクソソーム中の疼痛強度増悪に関与する二重膜上の因子を排除することで痛みを緩和できるという新規治療標的の確立を目的とした。 現在までの研究で、プロテオーム解析によりマウス血清由来のエクソソームから736種類のタンパク質を同定し、偽手術群と比較しPSNL群で1.3倍以上発現が増加したものは66種であることを明らかとした。この66種の中で因子Xに着目し、正常マウスに因子Xのリコンビナントタンパク質を投与したのちホルマリンテストを行ったところ、用量依存的に侵害刺激関連行動が増強した。また、野生型PSNLマウス血清由来のエクソソームでホルマリン誘発侵害刺激行動が増強する用量において、因子Xの機能欠損マウス血清由来のエクソソームでは、侵害刺激行動の増悪がみられなかった。 さらに、正常マウスに因子Xの受容体拮抗薬を前処置することで、野生型PSNLマウス血清由来のエクソソームによる侵害刺激増悪が拮抗された。 以上より、PSNLマウスの血清由来のエクソソーム二重膜上に存在する因子Xが、ホルマリン誘発侵害刺激行動の増悪因子であることを明らかとした。
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