研究課題
加齢に伴い健常人でも造血器腫瘍と同じような体細胞性の遺伝子変異を持つ同一クローン細胞が増殖するクローン性造血(CHIP)が認められ、65歳以上の高齢者の約10%においては、白血病などに関する体細胞遺伝子変異を有するCHIPが存在し、80歳以上ではその存在は50%にも上がることがわかってきている。CHIPは骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)の発症と深く関係し、一次がん治療後の二次性AMLの発症確率が10倍以上に増加することがわかってきた。そこで、本研究では、CHIPとAMLの発症や予後との関連を解明することを目的とし、主にAMLやAMLの前段階である骨髄異形成症候群および骨髄不全症候群を含む白血病、治療関連の二次性AML、ならびに非腫瘍性の血液疾患を対象に、AML発症に至るまでのCHIP遺伝子変異の挙動を明らかにするため、対象症例について経時的な検体収集を行い、全ゲノム解析によるCHIP関連遺伝子変異の探索と、AML発症群に特徴的なCHIPの遺伝子変異の経時的な変化を解析する。検体は、初診時、経過観察維時、発症時、治療中、治療後経過観察中、二次的白血病発症時あるいは再発時について、日常診療の検査時に付随して収集した。次世代シーケンスにはNovaSeqを使用し、構造変異などを含む網羅的解析のための全ゲノム解析とコスト面を含めた効率的な全エキソン解析について検討を行った。
3: やや遅れている
対象症例である白血病、治療関連の二次性AMLおよび非腫瘍性の血液疾患の経時的な検体は診療時の検査に付随して収集を行っているが、初診時などに既に発症後の検体である症例も多く、正常細胞の収集を改めて行っている。次世代シーケンスによるゲノム解析は、全ゲノム解析および全エキソン解析を検討した。シーケンスにはNovaSeq(Illumin)を使用し、全ゲノム解析にはNEBNext Ultra II FS DNA Library Prep Kit for Illuminaを、全エキソン解析にはTruSeq DNA Exome (Illumina)およびxGen Hybridization and Wash Kit (IDT)を用いた。コストの面から、数例において全ゲノム解析を行い、候補遺伝子の絞り込みやExon以外の変異の有無を確認後、全症例において全エキソン解析を行うこととした。シーケンスデータ解析には、所属機関のインフォマティクス部門で構築されたパイプラインを用いて解析を行い、全エキソン解析では1検体当たりおおよそ24時間で解析が行えることを確認できた。
全ゲノム解析、全エキソン解析の順にシーケンス解析を行うこととし、全ゲノム解析には発症群で5例程度を選択し、1塩基変異、挿入・欠失、コピー数変化、大規模な構造変異など網羅的に解析する。全エキソン解析にはNovaSeqで1ラン当たり30検体前後を解析する予定であり、検体の収集を継続的に行っていく。シーケンス解析から発症群に特徴的なCHIPの遺伝子変異を抽出し、デジタルPCR解析による遺伝子変異の高感度な経時的変化を観察する。発症までの変異量変化についてAML発症群と非発症群の違いを評価した後、臨床像との相関を検討し、AML発症に関わるバイオマーカーとして有用であるかを明らかにする。
対象症例の検体収集に時間を要しており、研究費の多くを占める次世代シーケンス用試薬の購入が次年度になったため。予定解析数の検体収集後、次世代シーケンス用試薬の購入を予定している。
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Haematologica
巻: ー ページ: ー
10.3324/haematol.2019.235598
Ann Hematol
巻: 98 ページ: 1675-1687
10.1007/s00277-019-03671-5