研究課題
肝障害のマーカーであるAST、ALTはビタミンB6の活性型であるピリドキサールリン酸(PALP)を補酵素とし、酵素活性のあるホロ型(PALP結合)と、酵素活性のないアポ型(PALP非結合)が存在する。国際臨床化学連合の勧告法(IFCC法)ではPALP添加の測定系で測定するためホロ型とアポ型が測定される。しかし、PALPの添加により試薬の安定性が低下することなどから、国際的にはトランスアミナーゼの測定にPALPを添加することは統一されておらず、本邦では、PALP非添加のJSCC標準化準拠法(JSCC法)で測定することが一般的でホロ型のみ測定される。このため、ビタミンB6欠乏状態では、PALPを添加しないJSCC法では、血清AST、ALTが見かけ上低値となり、肝障害を過小評価する可能性がある。本研究では、ビタミンB6欠乏患者におけるPALPを添加した測定系によるAST、ALT測定の有用性を明らかにすることを目的とする。2021年度は、IFCC法によるAST測定値について安定した結果が得られなかったため、ALTとビタミンB6濃度(ピリドキサミン、ピリドキサール、ピリドキシン)の関連について検討を行った。JSCC法によるALTの測定値によりControl群とLow群に分け比較すると、IFCC法のALT測定値はいずれの群もJSCC法より高値であったが、IFCC法測定時のアポ酵素活性値割合は、Low群でControl群より高かった。ピリドキサールの平均値は、Low群でControl群より低く、いずれにおいても、ピリドキサミンは0.2 ng/mL以下、ピリドキシンは3.0 ng/mL以下であった。ピリドキサールとJSCC法及びIFCC法のALT値は相関を示さなかったが、アポ酵素活性値割合は負の相関を示した。
3: やや遅れている
2021年度は、肝障害の程度とJSCC法とIFCC法におけるAST、ALT値の比較も実施する予定であったが、コロナの影響もあり、予定したサンプル数が集まらず、十分な検討ができなかった。そのため、2021年度の計画はやや遅れているとした。
2022年度は、2019年度から2021年度に得られた結果をもとに、サンプル数をさらに増やし、血清ビタミンB6濃度と測定法の違いがAST・ALT値に与える影響のより詳細な検討、及び肝障害の程度とJSCC法とIFCC法におけるAST、ALT値の比較を行い、IFCC法の有用性の検討を行う。また、本研究の成果をまとめて発表することを目標とする。
サンプル数が予定より少なかったため、次年度使用額が生じた。2021年度の未使用額分は、研究遂行のために必要な、検査試薬、検査消耗品、検査委託費、および本研究の研究成果を発表するにあたって必要な経費を中心に使用する予定である。
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