AST、ALTは、ビタミンB6の活性型であるピリドキサールリン酸(PALP)を補酵素とし、国際臨床化学連合の勧告法(IFCC法)ではPALP添加の測定系で測定され、本邦では、PALP非添加のJSCC標準化準拠法(JSCC法)で測定することが一般的である。JSCC法では、ビタミンB6欠乏状態ではAST、ALTが見かけ上低値となり、肝障害を過小評価する可能性がある。本研究では、ビタミンB6欠乏患者におけるPALPを添加した測定系(IFCC法)によるAST、ALT測定の有用性を明らかにすることを目的とした。 IFCC法のAST測定については、測定結果が安定しなかったことから、ALTについて主に検討した。 JSCC法とIFCC法の測定値は強い正相関を認め、IFCC法の測定値はJSCC法より有意に高値であった。ビタミンB6(ピリドキサール)低値では、有意にJSCC法でALT 低値(ALT<10 U/L)の割合が高く、全例でIFCC法がJSCC法より高値であった。ビタミンB6とALT(JSCC法、IFCC法)の相関は認められなかった。IFCC法測定によるJSCC法からの増加率は、ALT低値群がControl群(ALT 10-30 U/L)の約2倍だった。 2023年度は、JSCC法のAST及びALT基準範囲以下の肝障害患者を対象に検討を行った。肝障害患者においても、ATLはIFCC法がJSCC法より有意に高値であり、ビタミンB6低値では、JSCC法でALT低値の割合が高かった。IFCC法でALT 31 U/L以上となった例が約20%あったが、治療方針の変更はなかった。 以上より、ビタミンB6低値ではALT低値の割合が高く、ALT低値例においてPALP添加による測定法の有用性が示された。本研究の対象においては、肝障害の評価に大きく影響を与える程度ではなかった。
|