研究課題
2020年度の実績は、2019年7月以降に院内で採用が変更となったエラグ酸系のAPTT試薬の使用下にAPTT延長を来した症例を解析の対象としており、研究対象症例数は、凝固因子インヒビター陽性例が6例、ループスアンチコアグラント(LA)陽性例が38例となった。凝固因子インヒビター陽性例のうち4例が顕著な出血傾向のため、ROTEMによる解析で凝固が見られなかったが、LA陽性例では全例でROTEMによる波形が観察された。尚、ROTEMで凝固がみられなかった凝固因子インヒビター症例は、ROTEMのパラメーターの項目の解析において、今回の解析から除いている。これらの条件で対象症例を解析した結果、APTT、ROTEMのNATEMモードにおけるClotting time(CT)及びmaximum clot firmness(MCF)の平均±標準偏差は、凝固因子インヒビター陽性群及びLA群においてそれぞれ、72.2±10.7秒 vs 51.1±13.8秒、1562±188.5秒 vs 537.8±140.8秒、65.5±7.5 mm vs 60.5±8.4 mmであった。従って、ROTEMにおけるNATEMのCTをみると凝固インヒビター陽性群はLA群に比較して明らかな延長傾向が見られ、両群を鑑別できる可能性が示唆された。因みに自施設で健常人12名を対象としたROTEMにおけるNATEMでのCTは531±116.9秒であり、LA群と健常人群のCTは近似していた。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は病院移転、それに伴うAPTT試薬の変更、COVID-19の蔓延に起因する手術症例数の減少に伴う術前APTT検査機会の減少に影響を受け、対象症例数が当初の予想よりもかなり少なかった。2020年度に入り病院の機能が改善傾向を示し、APTT延長の対象症例数も増加に転じ、目標症例数を50-60症例程度と想定していたが、2021年5月現在において、凝固因子インヒビター群 6例、ループスアンチコアグラント例 38例の合計44例が登録できている。引き続き症例の集積及び解析を継続していく予定である。
ROTEMのNATEMモードだけではなく、INTEMやEXTEMといった別のモードでの各種パラメータの有用性を評価していく。また、対象症例の冷凍保存した血漿検体を用いて、凝固波形解析やThrombingeneration assayを追加していく。それらをROTEM結果と対比し、より確実に凝固因子インヒビター群陽性群とループスアンチコアグラント群を分類しうるパラメーターを模索していく。
対象症例の血漿検体を用いた検査に関しては2020年度時点では実施に至らず、今後実施していく予定である。具体的には、対象検体を用いた凝固波形解析検査やトロンビンジェネレーションアッセイ検査を追加するための機器・物品・試薬を購入するための資金として今後使用していく予定である。また、研究を論文化するための英文校閲や、国際学会で発表するための旅費として2021年度中に資金を使用していく予定である。
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